視覚情報の有無が静的立位姿勢保持中の足圧中心動揺に及ぼす影響

  • 水澤 一樹
    新潟県立がんセンター新潟病院 リハビリテーション科
  • 江原 義弘
    新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科
  • 古川 勝弥
    新潟リハビリテーション病院 リハビリテーション部
  • 田中 悠也
    わしざわ整形外科 スポーツ整形外科リハビリテーション科

説明

【目的】 立位バランスのひとつである静的立位姿勢保持は足圧中心(COP)の動揺から評価できるとされる(島田ら,2006).バランスに関与する要因は生理学的要因と物理学的要因に大別され,生理学的要因としては視覚・前庭迷路・体性感覚が挙げられる.水澤ら(2011)は物理的要因である身体特性のみではCOP動揺を十分に説明できないことを報告し,COP動揺には生理学的要因が強く影響していることが予想される.これまで生理学的要因とCOP動揺の関係については多くの報告がなされており,前庭迷路と面積系,深部感覚と単位面積軌跡長など,各生理学的要因に特有のCOP動揺パラメーターの存在が明らかとなっている.しかしこれまで視覚に特有のCOP動揺パラメーターについては明確な報告はなされていない.視覚とバランスの関係を追究し,各生理学的要因に特有のCOP動揺パラメーターを明確にすることは,バランスの性質をより明確にする上で必要なことである.そこで本研究の目的は,視覚情報の有無が静的立位姿勢保持中のCOP動揺に及ぼす影響を検討し,視覚に特有のCOP動揺パラメーターを追究することとした.【方法】 対象は健常男性11名とし,本研究について十分な説明を行い,書面にて同意を得た.床反力計2台を用い,サンプリング周波数100Hzにて対象者のCOPを抽出した.対象者には直立姿勢を60秒間保持させ,開眼・閉眼にて各1回ずつ計測した.その後,COPにおける単位軌跡長・左右方向単位軌跡長・前後方向単位軌跡長・左右方向最大振幅・前後方向最大振幅・矩形面積・実効値・実効値面積・左右方向標準偏差・前後方向標準偏差・集中面積の全11種類の要約統計量を算出した.そしてCOPの要約統計量が視覚情報の有無により差異があるか検討するため,開眼条件と閉眼条件間で対応のあるt検定あるいはWilcoxonの符号付順位和検定を行った.なおCOP動揺の各要約統計量間は強い相関関係にあるため(水澤ら,2009),交絡の影響を考慮し,視覚情報の有無を従属変数,各要約統計量を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析も行った.有意水準はp=0.05とし,それぞれ効果量(ES)も求めた.差の検定にはR2.8.1(Free software),多重ロジスティック回帰分析にはSPSS12.0J for Windows(SPSS Japan)を使用した.【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言に則り,新潟医療福祉大学倫理審査委員会の承認を得て実施された.実験に先立ち,対象者には本研究について十分に説明を行い,書面にて同意を得た.【結果】 視覚情報の有無によって有意差を認めた要約統計量は,単位軌跡長(p<0.05;ES=0.52)と前後方向単位軌跡長(p<0.05;ES=0.74)の2種類であった.なお多重ロジスティック回帰分析の結果,前後方向単位軌跡長が有意な変数(p<0.05)として選択された.【考察】 視覚情報が減少した場合,左右方向よりも前後方向の動揺が影響を受けるとされる(Dienerら,1982;中田,1982).本研究において視覚に特有のCOP動揺パラメーターは前後方向単位軌跡長であり,先行研究と同様の結果が確認された.なお単位軌跡長とは単位時間当たりの軌跡長であり,速度(距離/時間)を意味する.そのため視覚は静的立位姿勢保持中のCOP動揺の大きさではなく,速度に影響を及ぼすことが新たに明らかとなった.【理学療法学研究としての意義】 理学療法では立位バランスの客観的指標としてCOP動揺を参考にすることが多いが,本研究結果は視覚が立位バランスに及ぼす影響を判断する際の一助となる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Aa0868-Aa0868, 2012

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573093760
  • NII論文ID
    130004692311
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.aa0868.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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