ロッカー機能再獲得までの理学療法訓練プログラムの再考

  • 高井 浩之
    社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院 脳卒中理学療法部門
  • 大塚 功
    社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院 脳卒中理学療法部門
  • 両角 淳平
    社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院 脳卒中理学療法部門
  • 山崎 慎也
    社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院 脳卒中理学療法部門
  • 高橋 静恵
    社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院 脳卒中理学療法部門
  • 原 寛美
    社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院 リハビリテーション科
  • 山口 浩史
    社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院 リハビリテーション科
  • 安井 匡
    川村義肢株式会社 技術部開発課

書誌事項

タイトル別名
  • 小児期片麻痺歩行の歩容改善を目指した症例から

説明

【目的】<BR>正常歩行は、J.Perryによると立脚期に、踵ロッカー、足関節ロッカー、前足部ロッカー といった倒立振子の作用により、重心は前方へ回転し移動するとしている。このような機構をロッカー機能と呼ぶ。脳卒中後片麻痺患者においても正常歩行パターンを再獲得する過程において、この機能を獲得する事が重要であると思われる。そのためには脳卒中発症後早期からロッカー機能を阻害しない装具を使用し、正常歩行に近似した下肢アライメントと筋活動を引き出すような歩行訓練を行う必要がある。今回、油圧緩衝器底屈制動継ぎ手付き短下肢装具であるGait Solution Design(以下GSD)を使用し、ロッカー機能の再構築に着目し歩容の改善を試みた一症例について報告する。<BR><BR>【方法】<BR>対象は脳動静脈奇形による視床出血を呈した8歳の女児。発症後のリハビリテーション(以下リハ)はベッドサイドの訓練が主体であり、歩行は数mを裸足で行っていた。当院へリハ目的で入院した時は発症後81日目であった。初回評価はModified Ashworth Scale(以下MAS)、感覚、足関節背屈可動域、上田式片麻痺機能テスト(下肢)、10m歩行テストを測定。また、Gait Judge(川村義肢製:2009)を用いて、歩行中の麻痺側足関節運動角度、底屈モーメントを評価した。踵ロッカーに伴う底屈モーメントを1stピーク、前足部ロッカーに伴う底屈モーメントを2ndピークとして平均値を算出した。正常歩行に見られるロッカー機能の獲得を目的に、入院後GSDが処方され、これを使用した装具療法を実施した。理学療法プログラムは約2ヶ月間実施。訓練内容は1:廃用障害の予防と麻痺の改善。2:痙縮と可動域改善。3:筋力強化とバランス能力改善。4:歩行能力の改善とした。入院時と退院時にGait Judgeを測定し、波形と数値による歩容の比較をした。<BR><BR>【説明と同意】<BR>入院中の訓練内容・様子、訓練効果をまとめ、発表すること説明し同意を頂いた。<BR><BR>【結果】<BR><介入時評価と退院時評価><BR>身体機能評価の変化として、MASは2から0、感覚は中等度鈍麻から軽~中等度鈍麻、足関節背屈可動域は0°から10°、上田式片麻痺機能テストは8から9、10m歩行テストは14秒24歩から7秒20歩と改善した。<BR>Gait Judgeを用いた足関節底屈モーメントのうち、1stピークは1.8から2.0Nm、2ndピークは0Nmから0.3Nm、背屈角度は1.8°から8.0°、底屈角度は5.9°から4.3°と変化があった。入院時の歩容で特徴的であったExtention Thrust Patternは改善した。<BR>【考察】<BR>本症例は下腿三頭筋の痙縮、背屈可動域制限により、Initial Contact(以下IC)~Mid stance(以下MSt)時おける下腿部の前方回転が制限され、重心の前方移動が困難であった。これらの因子は急性期の廃用性障害と裸足歩行による異常歩行パターンの学習結果して捉えることができ、骨盤の後方回旋やExtention Thrust Patternを誘発させる原因と考えられた。本症例では立脚期動作パターンの再学習と下腿三頭筋の痙縮、背屈可動域が改善した事により、踵接地から前足部への重心移動が可能となり、併せて、GSDを使用した事で前脛骨筋の遠心性収縮が補助された事で踵ロッカーが再獲得でき波形も正常に近づいたと考えられる。大畑はMSt~Terminal Stance(以下TSt)にかけて、下腿三頭筋が腱を引き伸ばす事をStretch Shortening Cycle(以下SSC)と呼び、このSSCで腱に蓄えられ張力がPre-Swing(以下PSw)で2ndピークの波形として出現するとしている。脳卒中後片麻痺患者の歩行では2ndピークの獲得に難渋するとされており、本症例でも出現傾向ではあったが同様の結果となった。Inmanは『LRの時期は殿筋群、大腿筋膜張筋が等尺性収縮を起こし、立脚側下肢の安定性に奇与する』としており、本来であれば、MSt~TStにかけて前方移動する重心を下腿三頭筋腱が制御する事で張力は蓄えられ、2ndピーク出現の原動力となるが、股関節の筋力低下などで、股関節が不安定な場合は、前方へ重心移動が行えなくなる為、結果、下腿三頭筋は働かず、腱に張力が加わらない事が考えられる。本症例が2ndピークの獲得に難渋した事は股関節周囲の筋力低下が残存し、股関節の不安定性を呈していた為と考えられる。今後2ndピークを再獲得する為には股関節筋力評価と股関節の安定性を向上させる様な理学療法プログラムが必要と考える。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】GSDを使用し、ロッカー機能獲得を意識した歩行訓練を実施する事で正常歩行が獲得できる可能性があると思われる。また、Gait Judgeを使用し、歩容を客観的に現わす事で、歩行特性の分析が詳細に行なえ、訓練プログラムの見直しが可能と思われる。<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), BcOF1033-BcOF1033, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573124224
  • NII論文ID
    130005016932
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.bcof1033.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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