片麻痺者でリハ初回時端座位不良者における歩行の予後予測

DOI
  • 坂本 宗樹
    千葉中央メディカルセンター リハビリテーション課
  • 結城 俊也
    千葉中央メディカルセンター リハビリテーション課

書誌事項

タイトル別名
  • 端座位での踏み込み運動を指標とした試み

抄録

【目的】歩行の予後予測に関する先行研究において、臨床で簡便に使用出来る方法は少ない。石神らの先行研究では片麻痺者の予後予測として、リハビリテーション(以下、リハ)初回時に端座位良好群・不良群に分類し、良好群では4週間のリハによって歩行自立に至り、不良群では6週間後には監視や介助を要するとの結果を示している。<BR>本研究では端座位での踏み込み運動課題(以下、測定課題)を実施し、特に端座位不良群に相当する群に着目して歩行自立の可否及びこれに係る期間を調査した。そして片麻痺者の歩行予後予測に対し簡便で汎用性のある指標に成り得るかを明らかにする。【方法】2007年11月~2009年8月までの間に発症から5日以内に処方が出た脳血管疾患患者のうち、脳梗塞や脳出血で初発の40歳代~70歳代の43名(男性35名、女性8名、平均年齢64.8歳±8.9)を対象とした。著しい高次脳機能障害がある場合、検者の指示に対し理解困難な可能性がある為、皮質レベルに病巣がある場合は事前に対象外とした。尚、今回は理解度に問題なしの定義を『臨床上の指示に対して理解可能である』とした。内訳としては右麻痺24名、左麻痺19名、脳出血30名、脳梗塞13名、平均在院日数106.3±54.3日であった。<BR>測定課題は、15秒以上静的端座位保持可能で、且つ歩行自立が困難な方に対して『15秒以上静的端座位保持可能日』から測定開始した。また、歩行が自立(補装具使用の有無を問わず50m以上を監視にて3日連続して歩行が出来る事)するまで1週間毎に測定を継続し、課題の遂行経過を調査した。測定結果は(1)遂行不可能、(2)非麻痺側上肢支持により遂行可能、(3)非麻痺側上肢支持なしで遂行可能、の3段階に区分した。測定課題の遂行経過から、既得群(測定開始時から(3)に達している群)、完遂群(入院中に(3)に達した群)、困難群(入院中に(3)に達しなかった群)の3群に分類した。<BR>統計処理にはSPSS ver.16を用い、先行研究で不良群と定義されている群に相当する「完遂群」の歩行自立の可否、各群の端座位保持可能日数の比較にKruskal Wallis検定、多重比較にはBonferroni法でそれぞれ実施した。尚、危険率は5%未満とした。【説明と同意】ヘルシンキ宣言に従い研究内容に関する説明を行い、同意を得た上で実施した。【結果】既得群14名65.4±11.5歳、完遂群20名64.1±8.5歳、困難群9名65.4±5.6歳と年齢に差はなく、歩行自立率は、既得群100%、完遂群100%、困難群37.5%であった。そして歩行自立の可否は既得群-困難群、完遂群-困難群において各々p<0.01と有意差を示した。またリハ初回から端座位保持可能となるまでの所要日数は、既得群1.1±2.2日、完遂群6.8±6.0日、困難群19.9±14.5日となり、既得群-完遂群、既得群-困難群で各々p<0.001と有意差を示した。測定課題が完遂されるまでの所要週数は、完遂群3.8±2.5週であった。端座位保持可能となった日から歩行自立までの所要日数は、既得群16.1±12.4日、完遂群52.6±31.1日、困難群(歩行自立した方のみで平均)114.7±37.0日であった。【考察】本研究での既得群は、先行研究における端座位良好群に相当する。そして同等の期間で端座位保持可能となり、リハ初回時から歩行自立までに17.2日と、先行研究よりも10日程早期に歩行自立した。リハ開始初期に端座位保持自立する事は早期の歩行自立の予後予測に不可欠な因子である事が本研究からも示唆された。<BR>そして完遂群は、先行研究における端座位不良群に相当する。完遂群がリハ初回時から端座位保持可能となるまでには約1週間を要し、発症から6週後では先行研究同様、歩行自立しないものの2ヶ月後に歩行自立の傾向を示した。完遂群の歩行自立率は100%で、既得群と有意差なく、且つ困難群と有意差があった事からも測定課題を完遂出来る事は歩行の自立を示唆し、端座位不良群も歩行自立が見込める事を示唆した。<BR>また、完遂群が測定課題を完遂するまでの所要週数は、3.8週と端座位可能日から1ヶ月程で下肢の運動を支持・安定させる体幹の機能が運動力学的に得られている事が考えられる。そして、測定課題を通して体幹・下肢両機能が発揮される身体機能こそが歩行自立の為に不可欠な要因と考える。<BR>以上より、発症から1ヶ月半で測定課題が完遂されれば歩行は自立する(発症5日以内よりリハ開始し、その後1週間で端座位保持可能、そこから更に1ヶ月程で測定課題が完遂する、アルゴリズムに適応する方)という研究結果は、片麻痺者の歩行予後予測として有用である事が示唆された。【理学療法学研究としての意義】石神らの先行研究で、端座位不良群と定義された群がリハ初回から6週以降に歩行自立する可能性が大いにある事を示し、先行研究よりも更に長期的な予後予測が本研究の方法によって簡便に行える事と潜在的な身体機能を評価出来る一指標になる事である。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), B3O1049-B3O1049, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573148544
  • NII論文ID
    130004581980
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b3o1049.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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