急性期脳卒中患者におけるABMS2(Ability for Basic Movement Scale)の妥当性

  • 樋口 謙次
    東京慈恵会医科大学附属病院リハビリテーション科
  • 下地 大輔
    東京慈恵会医科大学附属病院リハビリテーション科
  • 中山 恭秀
    東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科
  • 安保 雅博
    東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座

説明

【目的】急性期における基本動作は、離床するための動作そのものであり、急性期脳卒中理学療法、外科術後理学療法、廃用症候群に対する理学療法の根幹を成す。この基本動作能力は、ADL遂行の土台にあたり、ADL評価の前に把握しなければならない評価として必須であり、治療の一部としても担う。しかし、これらの基本動作のみ(寝返り、起き上がり、座位保持、立ち上がり、立位保持)で構成している標準化された指標はなく、定義も曖昧であることが多い。そこで、H11年からH15まで当院で使用した脳血管早期理学療法評価表の起居動作評価を基に、ABMS(Ability for Basic Movement Scale)を作成し、基本動作の定義を試みた。ABMSにおいて、急性期脳卒中患者のADL予後予測の指標としての有効性を報告し、その後、定義の修正を繰り返し、修正版ABMS(以下ABMS2)へと改良した。ABMS2が急性期脳卒中患者の運動機能を反映する評価表としての妥当性を検討するためには、一般的に使用している脳卒中評価指標との関連性を検討することが必要と捉える。本研究の目的は、ABMS2 の基準関連妥当性を探り、運動機能における脳卒中評価指標としての可能性を検討することである。<BR>【方法】対象はH19.9~H21.9まで当院に入院した脳卒中患者154名を対象とした。対象の内訳は、男性108名、女性46名、平均年齢65.21±16.04歳、脳梗塞117名、脳出血37名である。方法は、ABMS2及び日本脳卒中学会が作成した脳卒中運動機能障害重症度スケール(JSS-M)を同日評価実施した。評価日は、平均12.05±12.15日(2-79日、中央値8日)である。ABMS2の基準関連妥当性の検討するためにABMS2の合計点(5~30)とJSS-Mの重症度スコア(-0.26~31.29)との相関関係をSpearmanの順位相関係数で算出した。また、脳卒中発症早期での評価を検証するために発症10日目までの評価可能であった115名の評価日とABMS2、JSS-Mの散布図及び各評価のヒストグラムを作成し、測定値の分布特性について検討した。統計処理はSPSSver16を使用し、有意水準を5%未満とした。<BR>【説明と同意】本研究は、当大学倫理委員会の承認(18-015:4677)を得て実施した。<BR>【結果】ABMS2の平均合計点は19.6±9.7であり、JSS-Mの重症度スコアは14.0±11.2であった。Spearmanの順位相関係数はR=-0.884(P<0.01)、R2=0.769であり、強い負の相関関係が示された。ABMS2とJSS-Mともに正規分布を示しておらず、ABMS2は左に歪んだ分布、JSS-Mは双峰分布を示した。<BR>【考察】ABMS2は、日本脳卒中学会が推奨するJSS-Mとの間で強い相関関係が示されたことから、急性期脳卒中評価に用いる評価表としての妥当性が示された。特にJSS-Mは、運動機能の重症度を比尺度で厳密に評価できるスケールであり、ABMS2と強い相関関係であることからJSS-Mに含まれる包括的な評価は、ABMS2の動作評価で代用が可能であることが示唆された。JSS-Mは、嚥下評価項目があり、その嚥下評価項目が評価全体の相対的重症度が高いことから、理学療法士の専門性を捉えた評価表として治療と評価が一体化しているABMS2の方が急性期脳卒中患者において、簡便であると考える。一方、軽症例において、ABMS2はヒストグラムより天井効果が認められることから、効果判定としての評価よりも予測としての評価として精度が高められるか今後の課題である。<BR>【理学療法学研究としての意義】評価表作成において、妥当性を検討することは必要であり、また、理学療法士が評価を行う基本動作で構成されている本評価指標から、急性期脳卒中患者の運動機能の重症度を評価することが代用できることは、理学療法研究として意義があるといえる。<BR><BR><BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), B3O1052-B3O1052, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573154944
  • NII論文ID
    130004581983
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b3o1052.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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