姿勢が肩関節屈曲動作に及ぼす影響
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- ─瞬間回転中心を用いた運動学的分析─
Description
【はじめに】 非外傷性肩関節疾患を有する患者は、骨盤後傾位、円背姿勢を呈する事を経験する。このような姿勢では肩甲骨が外転・上方回旋位もしくは外転・下方回旋位となり、肩関節屈曲動作時に肩甲骨の動きが制限され、様々な代償動作が生じることがあり、運動制限、運動障害の要因になる可能性がある。今回我々は、姿勢変化が肩関節運動に与える影響を明らかにするために、瞬間回転中心法(以下:ICR)を用いて測定した。瞬間回転中心法はFrankelらやSpiegelmanらによって報告されている。肩関節における報告もあるが、姿勢による影響を報告した研究は見当たらない。本研究は肩関節運動時の瞬間回転中心を姿勢を変化させた状態で計測したので報告する。【方法】 対象は整形外科的及び神経学的疾患のない健常男性10名(年齢28.6±3.6 歳、身長176.6±4.0 cm)であった。計測機器は3次元動作解析装置(VICON Motion system社 MXカメラ8台)を用い、サンプリング周波数100Hzで計測した。マーカー位置は、胸骨頚切痕部、剣状突起部、T2、T8、右上腕中央外側部、右前腕中央外側部、手関節中央部、両ASIS部、両PSIS部、右大腿骨大転子部に貼付した。瞬間回転中心を測定するために85cmの軽量な棒の両端にマーカーを貼付し、棒を肘、手関節を固定するための装具に固定した。計測肢位は、骨盤中間位、前傾位、後傾位とし各肢位とも任意の速度で肩関節屈曲運動を5回ずつ実施した。骨盤位置を保持するため20度の傾斜台を使用し、計測時に骨盤を固定した。ICRの解析は、棒に貼付したマーカー軌跡を肩関節屈曲に伴い時系列的に計測した。石田らによるとICRの初期、終末期では測定誤差が大きくなる事から、屈曲動作を30~60度、60~90度、90~120度、120~150度の各相に分類し、矢状面上の前後、上下座標を求めた。各相の平均座標位置を被験者ごとに各肢位とも5回の平均値を算出した。骨盤肢位を要因とするFriedman検定を用いて検定した後、有意差があるものに対し、Wilcoxonの符号付き順位検定を実施した。全ての統計分析はSPSS18J(SPSS Inc.)を用い、危険率は5%未満とした。【説明と同意】 本研究は文京学院大学大学院保健医療科学研究科倫理委員会にて承認を得た。被験者には測定前に研究目的と実験方法について説明を十分に行った後に計測を実施した。【結果】 肩関節屈曲動作における姿勢の影響の分析結果は、Friedman検定において30~60度では前後方向、上下方向で、90~120度では上下方向の移動で有意差がみとめられた(p<0.05)。有意差がみとめられたものに対しWilcoxonの符号付き順位検定を実施した結果、30~60度の相において骨盤後傾位では中間位よりICRが前方、下方向へ大きく移動した(p<0.05)。90~120度の相では骨盤中間位では前傾位より上方向の移動が大きかった(p<0.05)。【考察】 屈曲30~60度の相において、骨盤後傾位は骨盤中間位よりICRが前方、下方向へ大きく移動した。骨盤後傾位では肩甲骨が外転位となり、骨頭前方移動が生じたと考える。肩甲骨外転位での拳上動作は、上方回旋が制限され肩甲上腕リズムが乱れたと考えられる。また屈曲90度に近づくにつれ、上肢質量中心と肩関節の距離が大きくなり、関節モーメントも増大するため、関節安定化に腱板収縮が必要だと考えられるが、肩甲骨固定筋群が作用しにくい状態では、安定作用も弱化する事が予測される。下方への移動距離が大きくなった理由とも考えられる。六馬は肩関節安定性に関与する腱板は、拳上動作前半に強く作用し、拳上角度90°で最大に作用すると述べている。90-120度の相において骨盤前傾位は中間位より上方向への移動が小さかった事は、広背筋などの肩甲骨下制筋が作用したためと考えられる。これらの事から、腱板機能を効率よく働かせ関節を安定させるためにも、肩甲骨の動きが制限されないためにも、骨盤を中間位に保つ事は、肩関節屈曲中に骨頭を求心位に保ち続け、肩甲上腕リズムも安定すると考える。【理学療法学研究としての意義】 姿勢が肩関節屈曲動作に影響を及ぼす事を運動学的に把握する事は、姿勢から肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節の動きをある程度予測する事ができると考える。ICRの軌跡異常が生じている状態で肩関節の運動が繰り返される事により、肩関節周囲組織に機械的刺激が加わり、障害が発生するのではないかと推察される。姿勢を評価し、改善させていく事も、肩関節疾患に対して重要な事ではないかと示唆される。
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2011 (0), Ce0110-Ce0110, 2012
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205573172480
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- NII Article ID
- 130004693195
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
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