非特異的腰痛症に対する積極的安定化運動の効果
書誌事項
- タイトル別名
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- ─第2報─
説明
【はじめに、目的】 我々は非特異的腰痛症に対して従来の理学検査に荷重伝達機能テスト(active SLRテストと片脚立位テスト)を加える有用性を提唱している。前回、非特異的腰痛症例の初期治療として過緊張筋のリリースと同時に疼痛が生じないように配慮した深層筋と表層筋を共同収縮させる積極的動的安定化運動の即効性を報告した。しかし、臨床で積極的に活用している場面で再診時に骨盤帯非対称性を繰り返す症例や運動時、疼痛が悪化する症例を経験したため、さらなるサブグループ分けの必要性を感じた。今回、非特異的腰痛症症例で骨盤帯正中化後に腰椎と骨盤帯に疼痛誘発テストを施行し、主訴とする疼痛が再現される不安定性症例と考えられる症例のみを対象とした。目的は疼痛誘発テストの結果に準じた運動パターンの検討であり、その効果を床反力計と理学検査所見を用いて無作為に治療群間で検討することである。【方法】 対象は著明な神経学的脱落所見を認めず、3カ月以上の罹病期間を有する非特異的腰痛症122例から骨盤帯正中化後、腰椎と骨盤帯の疼痛誘発テストにて陽性であった70例である。罹病期間は平均21.9±2.1週、年齢は平均36.9歳、性別は男性34例、女性26例であった。開始時、ZEBRIS社製床反力計PDMを用いて両脚立位と片脚立位時の床反力中心(Center of Pressure,以下COP)を測定し、支持面積と総軌跡長を算出した。理学検査は疼痛(Visual Analogue Scale,以下VAS)と体幹前屈角度(Finger Floor Distance,以下FFD)とした。対象症例は骨盤帯正中化後、動的安定化運動をランダムに施行した群(以下ランダム群)と、疼痛誘発テストの結果に準じて動的安定化運動を選択した群(以下選択群)に無作為に分類した。その際、年齢と性別に有意差が生じないように配慮した。動的安定化運動は前回同様にKilkesolaらが提唱しているMaximizing Neuromuscular Recruitment(以下MNR)を応用した。MNRはHodgesらの提唱する深層筋再教育指導後、疼痛に注意しながら必要に応じて骨盤帯の免荷が可能な方法である。今回選択した運動パターンは腰椎不安定性には後部靭帯系理論による後部斜方向安定化を強調するような背臥位での広背筋と大殿筋の共同収縮運動を指導した。骨盤帯不安定性に対しては前部斜方向安定化を強調するように股関節内転筋群と反対側外腹斜筋の共同収縮運動を指導した。運動指導時、第4腰椎と第5腰椎棘突起間に指を置き、臍を前方へ出すような指示を加え、neutral spineを意識させた。治療内容は7秒間保持を7回反復させた。両群とも運動直後に、開始時と同様に床反力計による重心動揺測定と理学検査を施行して、群間での比較を行なった。【倫理的配慮、説明と同意】 当院の倫理規定に基づき、十分な説明を行い、同意を得た。【結果】 (1)VASは両群とも改善したが、選択群のみ有意差(p<0.01)を認めた。(2)FFDは両群とも似改善傾向であったが、選択群のみ有意(p<0.01)な改善を認めた。(3)COPによる支持面積は両脚立位姿勢で両群も有意(p<0.01)な改善を認めた。患側での片脚立位は選択群のみ有意(p<0.01)な改善を認めた。健側での片脚立位は両群とも変化は認められなかった。(4)COPの総軌跡長は患側立位のみ有意な改善を認め、両脚立位と健側片脚立位では有意差は認められなかった。COPの結果から、選択群において有意に立位安定姿勢が得られたことが示唆された。【考察】 非特異的腰痛症に対する体幹深層筋の特異的収縮運動の無作為臨床試行が多数報告され、骨盤帯痛と慢性腰痛の再発予防に対しては安定化運動が効果的であるが、急性腰痛の機能障害と疼痛の緩和に対する効果に関しては有意差が報告されていない。また非特異的腰痛症に対する運動療法の効果に関しては、非施行群や心理療法との比較ではエビデンス低いものの効果は立証されているが、ADL指導群、腰痛教室群、認知行動療法群、物理療法群、徒手療法群との比較ではその効果は同程度であるとされている。我々は前回、非特異的腰痛症に対して早期から疼痛に配慮しながら、深層筋群促通と同時に表層筋群の収縮を指導することで、治療直後より理学検査および姿勢安定性に有意な改善が認められたことを報告した。しかし、臨床で一部疼痛が悪化する症例が認められたため今回、疼痛誘発テストから不安定部位に応じた動的安定化運動を選択することで、疼痛が悪化する症例が皆無となり、理学検査とCOPともに運動直後より有意な改善が示唆された。以上の結果から骨盤帯正中化後の不安定性テストの有効性が示唆され、その結果に準じた運動指導の必要性が示唆されたものと考える。【理学療法学研究としての意義】 非特異的腰痛症例を疼痛誘発テストから詳細にサブグループ分けを行なうことで、急性期症例においても運動療法により即時効果が認められた。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Cd0840-Cd0840, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205573176064
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- NII論文ID
- 130004693191
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可