頚髄症で手術した透析患者の腸腰筋の筋力低下

Description

【目的】頚髄症の神経学的所見として四肢の感覚障害、上下肢の深部腱反射の異常、myelopathy hand、痙性運動麻痺などがあるが、透析患者では糖尿病、アミロイドニューロパチー、絞扼神経障害、手指の拘縮、ASOなどを合併している例が少なくなく(簗瀬ら、腎と透析 別冊2007)、頚髄症の自覚・他覚所見は修飾されている可能性がある。われわれは経験的に頚髄症手術例では腸腰筋の筋力がしばしば低下している印象を持っていたが(簗瀬ら、腎と透析 別冊2008)、透析患者の頚髄症手術例におけるその有所見率を再調査し、診断的意義について考察した。<BR>【方法】頚髄症に対する手術治療を受けた透析患者の下肢MMTをretrospectiveに調査し検討した。2003年1月から2009年1月までに当院にて頚髄症の手術を施行した透析患者は35症例であり、そのうちの頚椎初回手術34症例(男23名、女11名)を対象とした。術式は後方除圧固定術7例、後方除圧術27例であった。手術時年齢は平均66歳(53歳から86歳)で、手術時透析期間は平均13年(1年から33年)であった。術後3ヶ月時に存命34名、死亡0名(34,0 以下同様に記す)、6ヶ月時(32,2)であった。左右の腸腰筋(Ilio)、大腿四頭筋(Quad)、膝屈筋群(Hamst)、前脛骨筋(TA)、長母趾伸筋(EHL)、腓腹筋(GC)の12筋をMMT(manual muscle testing)の6段階で評価した。なお調査時期は手術直前、術後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月とした。術前のJOA下肢運動スコアは0点が9名、0.5点が2名、1点が12名、1.5点が4名、2点が1名、2.5点が1名、3点が4名、4点が0名、中央値は1点であった。<BR>【説明と同意】主治医による手術説明時に、臨床研究でのデータ提供の許可を全例で得た。<BR>【結果】結果1:手術直前のMMTが12筋全てそろう30名60下肢について調査した。MMT4以下を低下ありとした場合、Ilioは低下なしが8筋、低下ありが52筋(8,52 以下同様に記す)、Quadは(23,37)、Hamstは(20,40)、TAは(26,34)、EHLは(24,36)、GCは(25,35)であった。Ilioは他のどの筋に対しても有意に高頻度に低下していた(Chi-Square for independence testあるいは、Fisher’s exact Probability test P<0.05)。<BR>結果2:結果1と同じ30名を対象にして、各筋のMMTが左右ともに低下なし(A群)と、左右どちらか低下あり(B群)、両側低下あり(C群)にわけて検討した。IlioはA群が1名、B+C群が29名(1,29 以下同様に記す)、Quadは(7,23)、Hamstは(7,23)、TAは(10,20)、EHLは(9,21)、GCは(10,20)であった。Ilioは他のどの筋に対しても有意にB+C群が多かった(Chi-Square for independence testあるいは、Fisher’s exact Probability test P<0.05)。<BR>結果3: 34例のIlio68筋において、術後3ヶ月までの経過を調査した。OPE前MMT4以下であった55筋中、術後26筋(47.3%)の改善を確認した。また34例から手術直前のMMTが左右ともに5であった1例と、術後1ヶ月及び3ヶ月のデータがともにない2例を除いた31例では、MMT1段階以上の改善が左右1筋以上に認められた症例は19名(61.3%)であった。<BR>【考察】本調査では、頚髄症で手術をした透析患者の術前の下肢筋力はIlioが34名中33名(97.1%)低下し、また他の筋に比較して高頻度に低下していた。病態や病期的意義は不明であるが、術後短期に改善をみとめることから、Ilioの筋力低下は頚髄症に由来している可能性があると考えた。<BR>【理学療法学研究としての意義】頚髄症術後の予後は、罹病期間と術前重症度に相関する可能性があるといわれている。一方、透析患者においては、各種合併症の存在により頚髄症の自覚・他覚所見は修飾をうけ、診断や治療が遅れ、重度の症状に至る危険がある。そのため新たな指標が必要であると考えた。本調査において、Ilioが高頻度に低下し術後早期の回復もみられたことから、今後その病態、病期、重症度との関連などを検討することでIlioのMMTが頚髄症の理学所見を評価する指標の1つとなりえる可能性があると考える。

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573222144
  • NII Article ID
    130004582024
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b3o1093.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

Report a problem

Back to top