人工膝関節置換術患者の階段昇降能力に関連する因子
説明
【はじめに、目的】 人工膝関節置換術(以下、TKA) の適応となり手術を受ける患者の多くが階段昇降に困難を抱えている。TKA術後の階段昇降の自立獲得に加え、昇降手段として一足一段への期待も大きく、退院後の社会活動性の拡大、精神活動性の向上にも繋がる。今回、TKA患者の階段昇降能力に着目し、関連因子について調査した。【方法】 対象は当院において平成23年10月からの一年間にTKAを施行され、当院クリニカルパスのアウトカムである手術後4週退院、屋外自立歩行獲得を達成した患者53例(男性5例、女性48例、平均年齢74.6±5.9歳)とした。測定項目は属性因子である年齢、BMIに加え、手術前(以下、術前)、退院時の階段昇降能力、Timed Up & Go test(以下、TUG)、等尺性膝伸展筋力(以下、筋力)、手術側膝関節可動域(以下、ROM)とした。階段昇降能力は当院業務用階段(片手摺り、蹴上高18.5cm、踏面前後幅29.0cm、12段)の昇降1往復の自立レベルを可能例とし、杖使用の有無は問わないとした。昇降手段を一足一段、二足一段で分類し、昇降ともに一足一段をA群、昇段のみ一足一段をB群、昇降ともに二足一段をC群とし、退院時能力で分類した。TUGは肘掛け付きの椅子からの立ち上がり、3mを快適な速度で歩いたのち、目印を回り着座するまでの時間を3回測定し、最速値(sec)を採用した。歩行補助具は日常使用しているものを用いた。筋力はアニマ社製のμTasF-1を用い、端坐位にて固定用ベルトを使用し、膝関節90度屈曲位で手術側(以下、患側)、非手術側(以下、健側)をそれぞれ3回測定し、最高値(kg)を体重(kg)で除し百分率した体重比(%)とした。統計処理はSPSS ver.19.0J for Windowsを用い、3群間の術前、退院時の比較をKruskal-Wallis検定にて行い、有意水準5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 患者への説明と同意を得た上で測定を行い、倫理的配慮として当院の倫理委員会の指針に基づき行った。【結果】 A群20例、B群25例、C群8例、退院時階段昇降自立不可能例はいなかった。平均年齢はそれぞれ75.4±5.5歳、75.0±5.5歳、71.6±7.7歳。BMIはそれぞれ23.7±2.9、24.4±3.0、25.9±5.9。TUGの術前の測定値はそれぞれ10.3±2.7、11.8±3.9、13.9±6.1。TUGの退院時の測定値はそれぞれ10.1±2.0、12.0±2.5、13.5±3.2(p<0.01)。術前の患側の筋力はそれぞれ35.3±10.3、26.9±9.1、19.1±11.2(p<0.01)。退院時の患側の筋力はそれぞれ24.7±8.3、22.5±6.7、16.6±7.5(p<0.05)。術前の健側の筋力はそれぞれ42.1±8.3、31.4±10.9、30.4±16.0(p<0.01)。退院時の健側の筋力はそれぞれ39.1±9.3、31.8±9.9、28.5±14.8(p<0.05)。術前の屈曲ROMはそれぞれ130.5±12.9度、124.8±21.3度、126.3±12.2度。退院時の屈曲ROMはそれぞれ122.5±11.8 度、108.4±13.3度 、111.3±9.5度(p<0.01)。術前の伸展ROMはそれぞれ-7.3±6.0度、-7.8±7.4度、-6.9±8.4度。退院時の伸展ROMはそれぞれ-1.5±2.9度、-3.0±4.3度、-3.8±6.9度。術前・退院時の患側・健側の筋力、退院時のTUG、退院時の屈曲ROMにて有意差がみられた。【考察】 手術前、退院時において患側・健側ともに等尺性膝伸展筋力の関連性が認められた。青木らは昇段能力との密接な関係があるとしており、本研究においても関連性を得られた。TUGとの関連性が認められた要因として、TUGは複合動作を評価した機能的移動能力の指標であり、階段昇降も同様の要素があると考えられる。妹尾らは膝関節屈曲ROMが低下した症例では、重心が後方へ変位するため前方への推進力が低下し、交互昇降を困難とし、昇降形態を二足一段へと変化させるとしており、本研究において膝関節屈曲ROMの関与が示唆された。しかし、TUG、膝関節屈曲ROMは手術前との関連性はみられず、今後は疼痛や精神面などの多角的評価を行い、手術前より予測可能な指標が必要である。【理学療法学研究としての意義】 TKA術後の階段昇降能力の有用な指標が示された。退院時の階段昇降能力を予測し、理学療法の目標設定の指標となり、患者への目標提示の一助になると考えられた。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48100183-48100183, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205573343616
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- NII論文ID
- 130004584750
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可