小学校低学年通常学級に所属する肢体不自由児と健常児の歩行速度の比較

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抄録

【目的】 就学前の肢体不自由児の理学療法において、就学の段階でその移動手段が実用的に使えるか否かを予測・判断するのは難しい場合がある。それが小学校通常学級となると、移動に歩行を用いている肢体不自由児は健常児集団の生活の流れの中で歩くことが求められるので、歩行速度は検討の際の重要な要素となる。今回我々は、歩行を移動手段としている小学校低学年通常学級に通う肢体不自由児の歩行速度を確認することを目的に、彼らの歩行能力を評価した。【方法】 当センターで理学療法または作業療法を受けている小学1・2年通常学級所属の肢体不自由児のうち、校内移動を何らかの歩行で移動し、平地においては他者からの援助を受けずに歩いている児14名(男8名、女6名/平均年齢7.54±0.39歳/平均身長121.38±5.60cm)を肢体不自由児群とした。調査日までの1年以内に整形外科的手術を受けた児、また6ヶ月以内にボトックス治療などの神経遮断剤による処置を受けている児は除外した。歩行補助具の使用および装具の着用については、学校生活と同様とした。比較対照群として小学1・2年の健常児18名 (男8名、女10名/平均年齢7.38±0.64歳/平均身長122.45±6.07cm)を設け、健常児群とした。歩行評価は両群全員に10m歩行の評価を行った。通常歩行と最速歩行をそれぞれ3回ずつ行い、要した時間と歩数を測定した。3回の平均値を各児の代表値とし、これらから各児の歩行速度(km/h)、歩幅(cm)および歩行率(歩/分)の平均値を算出した。肢体不自由児群の通常歩行と最速歩行および健常児群の通常歩行と最速歩行におけるそれぞれの歩行速度、歩幅および歩行率について群内比較と群間比較を全ての組み合わせで行った。群内比較は歩行速度と歩幅については対応のあるt検定、歩行率についてはWilcoxonの符号順位検定を用いた。群間比較は、歩行速度と歩幅については対応のないt検定、歩行率についてはMann-WhitneyのU検定を用いた。解析ソフトはSPSS(ver.11)を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者全員とその保護者に対して本研究の説明を十分行い、文書にて同意を得た。【結果】 診断の内訳は、脳性麻痺9例、他の脳原性疾患2例、二分脊椎症2例およびデュシェンヌ型筋ジストロフィー症1例であった。移動手段の内訳は、独歩8名、杖歩行3名および歩行器歩行3名であった。両群間において身長に統計学的有意差は認められなかった。歩行速度は通常歩行/最速歩行の順に(以下、同様)、肢体不自由児群3.57±0.58km/h/4.96±0.74km/h、健常児群4.47±0.55km/h/7.13±1.09km/hであった。群内比較では両群とも通常歩行-最速歩行間に有意差が認められた(p<0.01)。群間比較では組み合わせ全てにおいて有意差が認められた(p<0.05)。歩幅は、肢体不自由児群48.05±6.52cm/51.66±7.33cm、健常児群52.76±5.35cm/58.28±6.55cmであった。群内比較では両群とも通常歩行-最速歩行間に有意差が認められた(p<0.01)。群間比較では肢体不自由児群最速歩行-健常児群通常歩行間に有意差が認められなかった(p=0.635)が、他の3つの組み合わせではそれぞれ有意差が認められた(p<0.05)。歩行率は、肢体不自由児群124.61±17.32歩/分/161.28±21.43歩/分、健常児群141.48±13.09歩/分/204.44±26.29歩/分であった。群内比較、群間比較共にいずれの組み合わせにおいても全て有意差が認められた(p<0.01,0.05)。【考察】 通常学級に所属する小学校低学年肢体不自由児の平均通常歩行速度3.57km/hは健常児の4.47 km/hよりも遅かった。しかし、彼らの平均最速歩行速度4.96 km/hは健常児の通常歩行よりも速いことを確認できた。この速度の増加は歩幅と歩行率を上げることで得ていることが考えられる。そして肢体不自由児は通常歩行に最速歩行を交えて健常児集団内を移動していることが推察される。これらは就学前肢体不自由児の実用歩行獲得の一指標となる可能性がある。しかし頻繁に最速歩行を用いなければならないとなると、移動にかなりの体力を使っていることも考えられ、中には疲労により授業やその他の活動へ支障をきたしている児がいるかもしれない。いずれにしても彼らの校内での歩行を正確に把握するには、歩行速度だけでなく耐久性、応用性、および転倒防御能力などの評価はもとより実際の校内移動の状況を確認することも必要である。これらは今後の検討課題である。【理学療法学研究としての意義】 今回の結果は小学校低学年通常学級に所属する肢体不自由児が校内平地移動に歩行を用いることができるか否かを判断する材料となる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ba0960-Ba0960, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573363456
  • NII論文ID
    130004692681
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ba0960.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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