階段昇降能力とFunctional balance scaleの関連性
説明
【はじめに】 当院の近隣にはエレベーターのない5階建て団地が合わせて6195世帯があり、その住居者が来院されることが多くある。そのため退院条件には階段昇降能力が求められることが少なくない。理学療法プログラムでは実動作の反復が主なプログラムになっている。先行研究では脳血管疾患患者の階段昇降能力に関する報告は多数あるが、バランス能力との関連についての報告は散見される程度である。そこで階段昇降にどのようなバランス能力が関与しているかを検討することが理学療法介入の一助になるのではと考えた。【方法】 対象はA病院回復期病棟に2008年10月から2010年4月までに入棟された脳卒中患者のうち入棟時Barthel Index(以下BI)の階段昇降項目が0点の113症例とした。情報は診療録・評価結果より疾患名、入院期間、入棟時・退院時BI、入棟時・退院時Functional balance scale (以下FBS)各項目を後方視的に収集した。解析方法としてBIの階段昇降の項目が入棟時0点から退院時0点のままの群(全介助群)、0点から5点に改善した群(一部介助群)、0点から10点に改善した群(自立群)の3群に分けた。3群の比較に用いたパラメーターについてFBSの項目を支持面と重心移動の関係から5つ(支持面固定化静的保持課題、準静的課題、支持面固定下重心移動課題、支持面移動課題、支持面狭小化課題)に分類し、その合計点を算出した。支持面固定化静的保持課題は静止立位と閉脚立位の合計、準静的課題は立ち上がりと着座の合計、支持面固定下重心移動課題は前方リーチ、床から物を拾う、左右振り向き課題の合計、支持面移動課題は360°回転、段差踏み変えの合計、支持面狭小化課題は継ぎ足位と片脚立位の合計とした。この合計点の退院直近時の点数から入棟時の点数を引いた値を利得としこの値を3群比較に用いた。なお座位保持は立位姿勢ではないということ、移乗動作は複合課題であること、閉眼立位は感覚情報の有無が関与することを理由に除外した。統計処理は、上記3群に対しFBSの利得を用いて1元配置分散分析(Kruskal-Wallis検定)を行い、p<0.05を示した項目に対し多重比較Steel-Dwass法を実施した。有意水準はいずれも5%とした。最後に入棟時の傾向を調べるために3群の入棟時FBSの点数を確認した。【倫理的配慮、説明と同意】 後方視的研究となるため個人情報保護法に従い,個人情報の取り扱い方に十分に留意した。当院倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 1元配置分散分析の結果全ての項目において有意差が見られた(P<0.01)。多重比較の結果、一部介助群と自立群の比較では静的課題、準静的課題(P<0.01)、支持面狭小化課題(P<0.05)の利得に有意差が見られた。全介助群と一部介助群の比較では静的課題、準静的課題(P<0.01)支持面固定下重心移動課題、支持面移動課題、支持面狭小化課題(P<0.05)の全5項目で有意差が見られた。全介助群と自立群では支持面移動課題、支持面狭小化課題(P<0.05)で有意差がみられた。入棟時のFBSは全介助群では全ての項目で0点。一部介助群では静的課題8点中4点、準静的課題8点中5点、支持面固定化重心移動課題12点中3.5点、支持面移動課題、支持面狭小化課題0点。自立群では静的課題8点中8点、準静的課題8点中8点、支持面固定化重心移動課題12点中11点、支持面移動課題8点中2点、支持面狭小化課題0点であった。【考察】 今回の結果から、一部介助群と自立群では静的課題、準静的課題、支持面狭小化課題で有意差を示した。しかし入棟時のFBSから自立群では静的課題、準静的課題は満点を示しており、天井効果により利得が得られなかったと考える。そのため、この2項目に関しては正確な結果とはいえない。したがって、支持面狭小化の利得のみが2群の違いと考えた。全介助群と一部介助群では全項目で有意差を示した。ただし、静的課題4点、準静的課題5点、支持面固定化重心移動課題3.5点、支持面移動課題、支持面狭小化課題は0点とバラツキがみられ、課題の難易度が関与したと考える。したがって、5項目全てに着目が必要だが難易度を考慮する必要性も伺えた。今回の結果から、一部介助群では支持面狭小化課題の能力が自立群との違いであった。また、全介助群では5項目全てが関与する事が示唆された。したがって、これらの内容を理学療法プログラムに取り入れることが有効である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 階段動作に必要なバランス練習を全介助群、一部介助群それぞれに示唆する事が出来た。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Bb0525-Bb0525, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205573398784
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- NII論文ID
- 130004692706
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可