健常者における車椅子坐位の姿勢が咳嗽力に及ぼす影響

DOI
  • 古田 美菜実
    財団法人 潤和リハビリテーション振興財団 潤和会記念病院 セラピスト室
  • 谷川 結
    財団法人 潤和リハビリテーション振興財団 潤和会記念病院 セラピスト室
  • 的野 美和子
    財団法人 潤和リハビリテーション振興財団 潤和会記念病院 セラピスト室
  • 平原 弥生
    財団法人 潤和リハビリテーション振興財団 潤和会記念病院 セラピスト室
  • 下り藤 実奈
    財団法人 潤和リハビリテーション振興財団 潤和会記念病院 セラピスト室
  • 林田 雅子
    財団法人 潤和リハビリテーション振興財団 潤和会記念病院 セラピスト室

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抄録

【目的】<BR> 日常生活で車椅子を使用する多くの患者において、車椅子上坐位での崩れた姿勢をよく目にするが、このような姿勢下では排痰が困難である様子が見受けられる。そこで今回、健常者を対象として車椅子上坐位の姿勢変化と咳嗽力の関係を検証するために、肺機能と咳嗽力に着目して車椅子上坐位の姿勢変化がそれぞれの項目に及ぼす影響について検討した。<BR>【方法】<BR> 矢状面からみた車椅子上坐位における骨盤後傾位20度と体幹正中位での肺機能と咳嗽力の測定を行った。肺機能の指標としてスパイロメーター(MINATO)のマニュアルにそって肺活量、努力性肺活量、1秒量、1秒率を測定し、咳嗽力の指標としてピークフローメーター(アセス)のマニュアルにそって咳嗽時最大呼気流量(Peak Cough Flow;以下PCF)を測定した。また、骨盤後傾位の設定の方法として上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ線の水平線からの傾きを20度とし、体幹正中位ではその角度が0度になるようにした。また、各実施間には1分間の休憩を設け、PCFに関しては3回測定したうちの最大値を、肺機能は1回の測定値を採用した。<BR> 対象者は既往歴として呼吸器疾患を持つ対象者を除外した平均年齢23歳(18歳-36歳)の健常者24名(男性12名,女性9名)。そのうち、喫煙者は男性5名であった。<BR> 統計処理にはノンパラメトリック検定を用い有意水準は5%以下とした。<BR>【結果】<BR> 肺機能検査では努力性肺活量および1秒率が車椅子上坐位での骨盤後傾位20度で体幹正中位と比較して数値が低下していた(p<.05)。また、PCFも同様に骨盤後傾位での低下がみられた(p<.01)。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者に対し本研究の目的及び内容を説明し研究参加への同意を得た。<BR>【考察】<BR> 咳嗽は3つの相に分類され、深吸気の相である吸気相、声門の閉鎖および肋間筋群と補助呼気筋群、腹筋群の強力な収縮がある圧迫相、声門が突然開く排除相からなる。<BR> 本研究では、PCF、努力性肺活量、1秒率において骨盤後傾位20度で有意な低下が認められた。骨盤後傾位では胸椎は屈曲位となり、伸展位と比較して肋骨の動きを制限させる。この胸郭・肋骨のアライメントの変化により、骨盤後傾位では胸郭の拡張も制限され努力呼気時に主に働く内肋間筋、腹筋群の収縮に影響を与えたと考えられる。また、骨盤後傾位での吸気時の姿勢は伸展位での呼気時に近いアライメントとなる。よって、咳嗽の吸気相での胸郭可動性が制限され、同時に圧迫相で働く筋群に影響を及ぼし今回の各数値の低下に至ったと考えられる。<BR> 今回の研究では対象を健常者としており、骨盤後傾位が咳嗽力に与える影響のみの検討に留まったため、実際の患者が呈する複合的な不良姿勢に関しての検討はできなかった。今後はこれらについても更なる検討が必要であると思われる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回健常者を対象とした研究では、車椅子坐位の姿勢が咳嗽力に及ぼす影響を検討した。車椅子上坐位での骨盤後傾位では体幹正中位と比較して咳嗽力が有意に低下していた。よって体幹正中位姿勢を促すことで咳嗽力を保つことの必要性が示唆された。<BR><BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), DcOF1094-DcOF1094, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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