習慣付いたショルダーバッグの携帯側が姿勢と動作に与える影響

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抄録

【目的】鞄の携帯方法と姿勢の関係について、これまでにもさまざまな報告が行われている。肩で鞄を携帯した場合、鞄を提げた側と反対方向への姿勢の傾きが大きく、無所持の場合と比較して有意な差があることや、歪みや非対称性の姿勢を持続的に反復することでその歪みが習慣化され、習慣的不良姿勢の発現につながるとこが報告されている。しかし、鞄の携帯方法が姿勢や歩行動作に与える影響について十分な検討は行われていない。そこで今回、習慣付いたショルダーバッグの携帯側が姿勢と動作に与える影響について検討したので報告する。<BR>【方法】予備調査として、本学の理学療法学科2・3年生(125名)を対象に、鞄の種類・携帯方法・使用時間について自記式にてアンケート調査を行い、調査当日の荷物を含めた鞄の重量を体重計(オムロン社製 体重体組成計 HBF-357-A)にて計測した。次に、日常的にショルダーバッグ(斜め掛け)を使用している健常男性6名・女性8名を対象とした姿勢と動作の計測を行った。計測項目は、ショルダーバッグ無携帯時・ショルダーバッグ斜め掛け携帯時(以下左荷物および右荷物)における立位姿勢・肩関節屈曲可動域・歩行とし、三次元動作解析装置(VICON社製 VICON MXおよびAMTI社製 床反力計 OR6-7)を用いて計測を行った。この時の荷物を含めたショルダーバッグの重量は、アンケート結果で得られた平均重量4.66kgとして設定し、ショルダーバッグは実験用に制作したものを使用した。また、その他の計測項目として、立位時の肩甲骨下角から床および脊柱までの距離を測定した。<BR>【説明と同意】本研究の実施にあたり、豊橋創造大学倫理委員会の承認を得、対象者には本研究の内容を文書にて説明し、研究参加の承諾を得た。<BR>【結果】アンケート調査による予備調査の結果、ショルダーバッグ使用者が47%と最も多かった。また、鞄の携帯方法の習慣化については、93%の学生がその携帯方法が習慣付いており、肩で鞄を支持するという携帯方法が最も多いという結果となった。肩関節屈曲最大角度は、ショルダーバッグの紐が掛かっている側の肩関節では左平均155.0度、右平均152.0度であり、ショルダーバッグの紐が掛かっていない側の左平均161.1度、右平均160.9度に比べて有意に小さな値を示した。歩行では、体幹の側方への傾きにおいて無携帯時と携帯時で有意差は無かった。しかし、最大前傾角度は左立脚期では、無携帯時の平均2.4度に対し、左荷物平均3.9度、右荷物平均4.2度と、無携帯時に比べ携帯時で有意に増加が認められた。右立脚期においても、無携帯時の平均2.6度に対し、左荷物平均4.0度、右荷物平均3.9度と同様の結果となった。また、肩の高さはショルダーバッグの紐が掛かっている側で低くなっていた。肩甲骨の位置については、右荷物の携帯方法が習慣付いている人のみ、脊柱から肩甲骨下角までの距離で左右に有意な差が認められた。<BR>【考察】ショルダーバッグを斜めにかけることで、紐が掛かっている側の肩関節では、ショルダーバッグの紐により肩甲胸郭関節の動きが制限され、肩関節の屈曲可動域が減少したと考えられる。また、荷物が臀部に位置することで、全体の重心が後方に移動するため、重心位置修正のため体幹の前傾が増加したと考えられる。一方、体幹の側方への傾きに有意な差がみられなかった理由は、荷物による重量が股関節中心付近に位置しており、これが体幹を側方へと傾ける因子とならなかったのではないかと推察された。また、ショルダーバッグの紐が掛かっている側では、荷物の重量が肩を下方向に下げる力として働くため、肩の高さが低くなったのではないかと考えられた。また、右荷物の携帯方法が習慣付いている人は、元々脊柱から右肩甲骨までの距離が左に比べて短く、右肩関節の可動域が小さいことが確認され、荷物を携帯する際、無意識に右荷物の携帯方法を選択し、右肩関節の動きを確保しているのではないかと考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法では、疼痛の除去・予防のため姿勢をより良く改善させることや、日常生活における様々な習慣を改善するような運動や生活指導が行われている。これまで、鞄の携帯方法と姿勢の関係やその影響について多くの報告が行われてきたものの、歩行や肩関節に与える影響について十分な検討は行われていなかった。今回の研究により、習慣化している鞄の携帯方法が、肩関節の可動域や歩行姿勢に及ぼす影響が明らかとなったことから、その影響に対する予防や対策を検討していくための有用な情報が得られたと考えられる。今後は、鞄を携帯する際の筋活動についての検討や、携帯方法の長期的な変更が身体にどのような影響を与えるかについて測定および解析を行い、検討していく必要があると考えられた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), H4P2363-H4P2363, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573421568
  • NII論文ID
    130004583062
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.h4p2363.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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