足関節背屈制限が片脚立位保持に与える影響

説明

【目的】脳血管障害による片麻痺で筋緊張や不動によるROM制限が引き起こされる。その中で足関節背屈制限は比較的頻度が高い障害の一つであり、姿勢や動作に影響を与える。足関節は荷重関節で身体の全体重を支え、安定している必要がある。よって足関節背屈制限は体重の支持、安定を阻害する因子である。特に理学療法において評価、プログラムとして頻繁に実施される片脚立位では足関節背屈制限による影響が顕著に現れる可能性がある。<BR>そこで、本研究は両側支柱付きダブルクレンザック式短下肢装具(以下、AFO)を用いて健常者の足関節背屈を制限し、様々な背屈角度による片脚立位の安定性を比較することを目的とした。さらに安定した片脚立位をとるために最低限必要な足関節背屈角度を検討した。<BR>【方法】対象は健常女性20名、平均年齢は21.5±0.9歳とした。また、対象は足長25.0cm以下であり、使用するAFOに適合した者とした。測定はすべて右下肢とした。<BR>AFOで足関節背屈角度を調節し、片脚立位の重心動揺を測定した。AFOは制限をつけなければ底背屈20°の可動範囲となる。背屈角度は-10°、-5°、0°、+5°、+10°で前方制動となるように設定した。背屈-5°であれば底屈5°~底屈20°の可動範囲である。測定順序はすべて統一し、順にAFOなし、AFOを装着した背屈制限なし(以下、背屈制限なし)、背屈0°、背屈-5°、背屈+5°、背屈+10°、背屈-10°とし、最後に慣れの有無をみるため背屈0°で再度測定した。重心動揺測定は重心動揺分析装置マットスキャン(ニッタ社)G-620にて行い、対象者は眼の高さに合わせた3m前方の印を注視し、上肢は胸の前で交差させた。測定は30秒間行い、左足が地面に着くなど片脚立位を保持できなかった場合は失敗とした。各背屈角度における失敗回数は記録した。足関節以外の関節に制限はつけなかった。<BR>各背屈角度間の重心動揺の総軌跡長(cm)、外周面積(cm2)、単位時間軌跡長(cm/sec)、失敗回数を比較した。これは足関節背屈角度-10°、-5°、0°、+5°、+10°の5条件でフリードマン検定を行い、有意差が認められればウィルコクソン符号付順位和検定を行った。さらに装具の有無(AFOなし、背屈制限なし)による違いについても検討した(ウィルコクソン符号付順位和検定)。また、測定の慣れを背屈0°の1回目と2回目で比較した(ウィルコクソン符号付順位和検定)。<BR>【説明と同意】すべての対象者に研究の趣旨を十分説明し書面にて同意を得た。<BR>【結果】各足関節背屈角度における失敗回数は背屈角度-10°:21回、-5°:39回、0°:20回、+5°:3回、+10°:3回であった。足関節背屈角度-10°、-5°、0°、+5°、+10°の5条件での総軌跡長、外周面積、単位時間軌跡長の値に有意差は認められなかった。しかし、失敗回数は-5°と+5°、-5°と+10°で有意差が認められた(p<0.01)。装具の有無による総軌跡長、外周面積、単位時間軌跡長の違いは認められなかった。測定の慣れについては背屈0°の1回目と2回目での総軌跡長、外周面積、単位時間軌跡長に有意差は認められなかった。<BR>【考察】足関節背屈角度(-10°、-5°、0°、+5°、+10°)による片脚立位時の重心動揺に有意差は認められず、失敗回数には背屈域(+5°、+10°)と底屈域(-5°)との間に有意差が認められた。失敗とは片脚立位時に支持基底面から重心が逸脱した不安定な状態であり、片脚立位保持不可である。足関節底屈位での失敗が多いことは背屈制限が転倒の誘因となること、また、安定した片脚立位には足関節背屈可動域が必要であることを示唆している。<BR>平沢らは踵を0、足先を100とした足長の20~85%の間が立位保持可能域と報告している。通常、重心は約40%のところとされ、前方への重心移動は後方よりも約2倍の許容域を持つ。重心が前方にある背屈位よりも後方にある底屈位で失敗が増加していたことはこのような特性を反映した結果であると考えられる。また、背屈域と背屈-10°では失敗回数に差がなかったことは-10°において膝関節が過伸展位となり股関節、上部体幹が大きく代償したためではないかと考えられる。<BR>また、人は歩行速度が速くなると単脚支持期が延長し、片脚立位の安定性が必要となる。背屈-5°では片脚立位が不安定になることから、歩行速度向上のためにも足関節は背屈角度が必要となる。<BR>【理学療法学研究としての意義】安定した片脚立位には足関節背屈可動域が必要であることが示唆された。これは足関節背屈制限が転倒のリスクや歩行速度とも関係するため、足関節背屈可動域の確保は臨床上、大きな意味を持つといえる。<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), H4P2360-H4P2360, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573425792
  • NII論文ID
    130004583059
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.h4p2360.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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