運動器疾患に対するストレッチングのシステマティックレビュー

  • 増子 潤
    埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科
  • 丸毛 達也
    埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科
  • 大塚 知香子
    埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科
  • 金村 尚彦
    埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科
  • 森山 英樹
    埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科

説明

【目的】ストレッチングは運動器疾患に対する運動療法の中で最も基本的な手段である。本研究の目的はストレッチングの治療効果に関する論文を系統的に分析することにより,その有効性を調査することである。<BR><BR>【方法】対象とする臨床試験は,1)試験デザインがランダム化比較試験か比較臨床試験のいずれかである,2)運動器疾患に対するストレッチング単独の効果を検証したものである,3)言語が英語か日本語である,とした。1950年から2009年8月までの運動器疾患に対するストレッチングの効果に関する論文をPubMed,CINAHL,PEDro,Cochrane Library,医学中央雑誌のデータベースにて検索した。検索式はPubMed,CINAHLではstretching and (muscle or joint),PEDro,Cochrane Libraryではstretchingとした。ただし,医学中央雑誌に関しては検索式を日本語とし,伸張,ストレッチ,筋, 関節とした。<BR><BR>【結果】検索の結果,全部で1607編の論文と341編のシステマティックレビューが該当した。ランダム化比較試験,準ランダム化比較試験はPubMedで329編,CINAHLで415編,Cochrane Libraryで485編,PEDroで260編,医学中央雑誌で1編抽出した。その中で重複論文はCINAHLで2編,Cochrane Libraryで214編,PEDro で130編あったためこれらを除外した。システマティックレビューはPubMedで252編,CINAHLで38編,Cochrane Libraryで18編,PEDroで32編抽出した。その中で重複論文はCINAHLで1編,Cochrane Libraryで8編,PEDroで15編あったためこれらを除外した。そのうち,研究計画の段階であらかじめ設定しておいた研究選択の適格基準に合致したランダム化比較試験,準ランダム化比較試験14編, システマティックレビュー2編を抽出した。さらにシステマティックレビューの参考文献から適格基準に合致する論文を加え,26編のランダム化比較試験と準ランダム化比較試験を対象とした。疾患毎では足関節背屈制限患者は4編,腰痛は1編,膝関節伸展制限患者は2編,ハムストリングス損傷は2編,下肢のオーバーユース症候群は5編,遅発性筋痛は6編,踵痛患者は1編,頸部痛患者は1編,足底腱膜炎は1編,その他3編であった。足関節背屈制限ならびに膝関節伸展制限に対して関節可動域制限改善効果をもつことが報告されている。股関節伸展制限ならびに腰痛患者に対する股関節屈筋に対する自動・他動ストレッチングはともに関節可動域改善効果をもつが,その効果に差異はないと報告されている。踵痛患者に対して持続的・間欠的ストレッチングともに柔軟性を増加させ,疼痛を緩和させたが,その効果に差異はないと報告されている。足底腱膜炎患者に対して長期間のストレッチングは疼痛緩和と機能的制限の改善に有効であると報告されている。ハムストリングス損傷に対する静的ストレッチングはハムストリングスの柔軟性を高めると報告されている。また,遅発性筋痛・オーバーユースによる障害に対する効果を検証した論文のうち6編で予防効果はないと報告されている。甲状腺手術後頸部に不快感を訴える患者に対して不快感が減少し,疼痛緩和に有効であると報告されている。<BR><BR>【考察】本研究結果により,運動器疾患に対する関節可動域改善・疼痛緩和に関する全ての論文でストレッチングが有効であることが報告されていた。一方で遅発性筋痛・外傷による障害に対する論文では11編中6編で予防効果はないと報告されており,有効性を導き出すことは難しかった。対象疾患は様々であり,使用するアウトカムやフォロー期間が一致していなかった。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】運動器疾患に対して,ストレッチングが関節可動域改善ならびに疼痛緩和効果に有効であることが示された。このことより,臨床において安静や固定による関節可動域制限患者,腰や頸部に痛みを訴える患者に対してストレッチングを実施することが有意義であることが証明された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), H4P2352-H4P2352, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573429376
  • NII論文ID
    130004583051
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.h4p2352.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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