腋窩動脈が上腕に達する3つの経路と肩甲下動脈系の経路

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【目的】腋窩動脈は,鎖骨下動脈につづく動脈で,鎖骨の下縁から大胸筋下縁に至るまでの間をいい,正中神経と併走し,上腕動脈に移る.この動脈から出る枝に,胸壁に至るもの(最上胸動脈,胸肩峰動脈,外側胸動脈),腋窩の後壁に至るもの(肩甲下動脈),上腕の上端に至るもの(前上腕回旋動脈,後上腕回旋動脈)の3種がある.今回,腋窩動脈はもちろんのこと,腋窩の後壁に至る動脈及び上腕の上端に至る動脈を詳細に観察し,腋窩動脈あるいは上肢の動脈の特徴を明らかにしようと試みた.<BR>【方法】2008年度の埼玉医科大学理学療法学科構造系実習及び新潟大学医学部肉眼解剖学セミナーで観察された実習体のうちの8体8側の腕神経叢と腋窩動脈とその枝についての分枝位置,走行経路,分布及び神経との局所関係を肉眼解剖学的に詳細に観察した.<BR>【説明と同意】これらの観察はすべて, 死体解剖保存法, 及び, いわゆる献体法に従って行われた. <BR>【結果】 1.腋窩動脈と腕神経叢の位置関係: 腋窩動脈が正中神経ワナ(内側神経束と外側神経束が交わるもの)を貫き正中神経の深層に至り上腕へ達するものが6側(標準型),腋窩動脈が正中神経の深層へ移る際に正中神経ワナを貫かず,内側神経束の下縁を迂回するものが1側(迂回型),腋窩動脈が終始正中神経の浅層を走行するものが1側(浅上腕動脈型)観察された. 2.肩甲下動脈の分枝位置・肩甲下動脈と橈骨神経の位置関係: 標準型では,正中神経ワナを貫く前で肩甲下動脈を分枝するものが3側, 正中神経ワナを貫いた後に肩甲下動脈を分岐するものが3側あった. 前者は, すべて橈骨神経の内側を通っていた.後者は橈骨神経の内側を通るのが1側, 橈骨神経の外側を通るのが2側あった. 迂回型では,正中神経の深層に達した後に肩甲下動脈を分枝し, 橈骨神経の外側を通っていた. 浅上腕動脈型では, 胸筋神経ワナ(内側胸筋神経と外側胸筋神経が交わるもの)貫く前で肩甲下動脈を分枝し, 橈骨神経の内側を通っていた. 3.腋窩での肩甲下動脈と他の枝との関係: 肩甲下動脈と肩甲下動脈以外の肩甲骨周辺へ分布する動脈との関係を観察すると, 後上腕回旋動脈(5側),上腕深動脈(1側)と共通幹を成す例が観察された. 5側中1側の上腕回旋動脈は橈骨神経の外側を通る肩甲下動脈から分岐され, 他の4側は橈骨神経の内側を通る肩甲下動脈から分岐していた. そのうちの1側は後上腕回旋動脈と上腕深動脈ともに共同幹を形成していた. <BR>【考察】1.腋窩動脈が上腕へ達する経路: 通常,腋窩動脈が正中神経ワナを貫き,正中神経の深層に至り上腕動脈となるのが標準的である.しかし,今回腋窩動脈が正中神経の深層へ移る際に正中神経ワナを貫かず,内側神経束の下縁を迂回し上腕動脈に達するものと,腋窩動脈が終始正中神経の浅層を走行するものが観察された.以上より,腋窩動脈が上腕へ達する経路は3つのルートがあることが考えられる.いずれのルートも上肢の主幹動脈と成りうるものであると考える. 2.肩甲下動脈の分枝位置と走行経路: 肩甲下動脈の分枝位置と走行経路について観察すると,1)正中神経ワナ又は胸筋神経ワナの前で肩甲下動脈を分枝するもの,2)正中神経の深層に達し,橈骨神経の内側を通り肩甲下動脈を分枝するもの,3)正中神経の深層に達し,橈骨神経の外側を通り肩甲下動脈を分枝するものが観察された.以上により,肩甲下動脈は分枝位置と走行経路でみると,1)~3)の3つに分類できると考えた. 3.肩甲下動脈の分枝: 肩甲下動脈は腋窩の後壁に至る動脈である.今回,後上腕回旋動脈と上腕深動脈が肩甲下動脈との共通幹として観察される例があった.これらすべては,橈骨神経の内側を通る肩甲下動脈から分枝されていた.<BR>【理学療法学研究としての意義】運動器系の栄養動脈について, その起始, 経路, 分布の詳細を熟知することは, 理学療法学基礎研究として重要と考える.

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573438464
  • NII Article ID
    130004581945
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p3048.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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