二期的人工股関節再置換術に対する理学療法の現状と課題

  • 柿沼 綾美
    公立大学法人横浜市立大学附属病院リハビリテーション科
  • 島津 尚子
    公立大学法人横浜市立大学附属病院リハビリテーション科
  • 中村 大輔
    公立大学法人横浜市立大学附属病院リハビリテーション科
  • 向山 ゆう子
    公立大学法人横浜市立大学附属病院リハビリテーション科
  • 小西 聡宏
    公立大学法人横浜市立大学附属病院リハビリテーション科
  • 上杉 上
    公立大学法人横浜市立大学附属病院リハビリテーション科
  • 水落 和也
    公立大学法人横浜市立大学附属病院リハビリテーション科

Description

【はじめに、目的】 人工股関節全置換術(THA)後,数年経過してから人工股関節周囲の遅発性感染を発症する症例に遭遇することがある.二期的人工股関節再置換術(二期的再置換術)とは,抗生物質を投与しても感染兆候が消失しない人工股関節周囲感染(感染)に対する治療の一つである.具体的には,人工股関節抜去術(抜去術)を施行して患側下肢免荷の状態で待機し,感染が鎮静化してから,人工股関節再置換術を行う.二期的再置換術後は,通常のTHAと比較して理学療法(PT)に難渋することも多い.今回は,二期的再置換術を施行した複数症例の,術後PTの現状と課題を明らかにすることを目的とする.【方法】 2009年4月から2011年9月の期間までに当院でTHAを施行した153例のうち,遅発性感染により抜去術を施行した後,二期的再置換術を施行した7例(全体の4.6%)を対象とした.診療録より後方視的に一般状況,二期的再置換術後のPTプログラム,PT経過,PT施行上の問題点,退院時の身体機能と移動能力を調査した.【倫理的配慮、説明と同意】 当院ではすべての入院患者において「医学研究及び教育に関する(包括的)同意書」に基づいて,診療情報等が,個人が特定されず不利益を受けない形で研究及び教育に使用されることについて同意を得ている.【結果】 対象の内訳は男性3例,女性4例で,平均年齢65.6(40-82)歳であった.感染の発症は,最後にTHAを施行してから平均6.3(1-18)年後で,今回の二期的再置換術は平均2.4(2-4)回目の同側の人工股関節再置換術であった.抜去術から二期的再置換術までの待機期間は平均156(98-254)日間であった.待機期間の実用移動能力は,車いす駆動自立が4例,両松葉杖歩行自立が3例であった.二期的再置換術後の平均在院日数は,術後44.9(27-59)日間であり,退院時の患側下肢の荷重量は, 4例が全荷重が許可され,3例が部分荷重のままであった.二期的再置換術後に実施されたPTプログラムは,両下肢筋力訓練,関節可動域訓練,荷重量の変化に応じた立位・歩行・階段昇降訓練,起居移乗動作訓練を含めた脱臼予防の指導等であった.患側股関節の筋力訓練では,代償運動を伴う例が多く,単独の股関節運動の指導が必要であった.また,立位・歩行・階段昇降訓練では,患側下肢の補高や股関節外転装具等の補装具と歩行補助具を適宜使用し,変更しながら進められていた.二期的再置換術後におけるPT進行上の問題点としては, 3例に,退院時にも残存する患側大腿部の伸張痛や筋硬結,患側足関節の疼痛,対側膝関節の疼痛がみられた.また, 2例で病棟での脱臼がみられた.退院時の移動能力は, 5例で両松葉杖等を使用した歩行が自立となり自宅退院した.残りの2例では歩行器での歩行訓練を行ったが,実用歩行の獲得までには至らず転院となった.退院時に患側下肢の全荷重負荷が許可されていた症例も,両側上肢で歩行補助具を支持する傾向にあった.また複数症例で,退院時にも股関節の関節可動域制限や筋力低下が残存していた.二期的再置換術後に自立歩行を獲得して自宅退院した症例は,待機期間に患側下肢の免荷歩行が自立していた症例と,待機期間の実用移動能力が車いすであっても,比較的待機期間が短かった症例であった. 【考察】 通常のTHAよりも術後在院日数が長いにもかかわらず,退院時に患側股関節の機能低下が残存し,両側上肢に歩行補助具が必要な症例が多かったことから,二期的再置換術後の患側股関節の機能回復には時間を要すると考えられた.これは手術が複数回に渡る上に,感染した筋や骨を広範囲に掻爬するため侵襲も大きいことや,待機期間の免荷による患側下肢の廃用性機能低下が影響していると考えられた.PTの課題の一つとして,いかに患側下肢免荷である待機期間から二期的再置換術後の歩行獲得に向けてプログラムを進行するかが挙げられると考えられた.待機期間には,他関節の機能を維持しながら活動量を確保し,二期的再置換術後は,患側股関節の機能回復を図りながら補装具や歩行補助具を個々人に合わせて調整し,歩行訓練を進めることが重要であると思われた.【理学療法学研究としての意義】 二期的再置換術後のPTに関する報告は少なく,それらも難渋例としてのシングルケーススタディがほとんどである.今回,複数症例を対象として二期的再置換術後のPTの全体像を示したことに,本研究の意義があると考える.

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573473536
  • NII Article ID
    130004693149
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.cb1378.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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