中殿筋における神経支配帯の分布の推定

DOI
  • 井所 拓哉
    国立病院機構高崎総合医療センターリハビリテーション科
  • 西原 賢
    埼玉県立大学保健医療福祉学部
  • 千明 友彦
    本島総合病院リハビリテーション科
  • 山鹿 隆義
    国立病院機構高崎総合医療センターリハビリテーション科
  • 五味 敏昭
    埼玉県立大学保健医療福祉学部

抄録

【目的】物理療法のひとつである電気刺激療法を行う場合,モーターポイントの位置を考慮して電極を設置しなければならない。一般的にモーターポイントは筋の中央に位置していると考えられており,電気刺激による筋活動誘発の経験的な観測で求められることが多い。しかし,それは上腕二頭筋や僧帽筋のように筋線維が並列した単純な構造の筋では知られているが,複雑な構造の筋では定かではない。通常,モーターポイントは神経筋接合部が密集しているとされる神経支配帯あたりに存在する。本研究では表面筋電図を用いて歩行中の骨盤の安定性に重要な筋のひとつである中殿筋における神経支配帯を推定することを目的に分析を行った。<BR><BR>【方法】対象は健常成人男性8名(年齢20~23歳,平均身長175.0±1.7cm,平均体重66.7±4.7kg)とし,計測肢はいずれも左側下肢とした。側臥位において股関節外転運動時の筋電図を計測し,表面筋電図記録中は重錘バンド負荷による30%最大等尺性随意収縮を持続的に1分間行わせた。双極アレイ電極(銀線1mm角棒直線Ag/AgCl電極,ユニークメディカル社製)9本をポリ塩化ビニル樹脂板に10mm間隔で固定したマルチチャンネルアレイ電極列を用いて,合計8チャンネルを導出した。電極貼付部位は大腿骨大転子と外側上顆を結ぶ直線上で腸骨稜と大転子を結ぶ線分の近位1/3を中心点として貼り付けた。生体アンプ(AB-620G,日本光電社製)の記録周波数範囲は5~1,000Hzとし,サンプリングレートは10,000samples/secでアナログデジタル変換(DAQCard-6062E,National Instruments社製)を行い,パソコンに保存した。保存した筋電図データは波形の電位方向,電位伝播(活動電位ピーク時間の遅延)が観察しやすいように開発した計算機プログラムを用いて正規化した。計算機プログラムの開発にはLabVIEW Ver. 6.1(National Instruments社製)を用いた。神経支配帯の位置は正規化された波形において電位の反転するチャンネル間の位置や電位伝播の方向から推定した。<BR><BR>【説明と同意】被験者全員には研究の目的と方法について書面にて十分に説明を行い,同意を得た。<BR><BR>【結果】被験者全員において電位の反転が観察された。被験者1名においては2カ所でそれを認めた。しかし,電位伝播はいずれの被験者でも観察されなかった。全被験者において同定された神経支配帯の位置は,腸骨稜と大転子を結ぶ線分上で腸骨稜から7.5~52.7%の範囲に分布していた。<BR><BR>【考察】中殿筋の上部1/2の範囲において神経支配帯が存在することが推定されたが,複数観察された被験者も存在し,なおかつ広範囲に分布しており,その分布は個人差が大きいことを示唆している。いずれの被験者においても活動電位伝播を認めなかったことから中殿筋の筋線維の配列は肉眼的な解剖観察から確認できるほど単純ではなく,複雑な筋線維の配列構造をしていることが示唆され,このことが神経支配帯の分布にも影響しているものと考えられた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】中殿筋の神経支配帯の分布は,従来,神経筋接合部が密集すると考えられていた筋の中央部のみならず広範囲に分布していることが本研究において示唆された。電気刺激療法を行う際には,電極設置部位は個人おいて詳細に検討する必要性がある。また,マルチチャンネルアレイ電極列を用いた本法は,解剖学的な知見や経験的に行われていたモーターポイントの探索方法をより客観的に行う一方法となりうる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P3043-A4P3043, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573480576
  • NII論文ID
    130004581940
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p3043.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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