下肢荷重検査における人工股関節置換術患者の脚長差・荷重率・重心動揺の推移
書誌事項
- タイトル別名
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- ─反対側股関節の状態からみた比較─
説明
【はじめに、目的】 人工股関節置換術(以下THA)の術前後における脚長差・荷重率・重心動揺の推移を,非術側の状態に着目して分析した.【方法】 2008.04から2011.09.の期間に演者が担当したTHA患者213名のうち,基礎疾患が変形性股関節症であり,術後パスに従い4週以上の継続理学療法を実施し,術前術後を通して開眼静止立位での重心動揺測定が疼痛なく可能であった47名(年齢61.3±8.9歳,術側右:24名,左:23名,全員女性)から,X線学的病気分類によって反対側が正常または前期股関節症である正常群17名と,既にTHAを施行しているTHA群18名の2群を抽出した.ツイングラビコーダー(G-7100,Anima)の下肢荷重検査モードを使用し,「左右下肢に均等に荷重をかけて立つ」という課題のもと,開脚幅10cmでの2分間の開眼静止立位保持検査を行い,術前および術後1週・2週・3週・4週時点における術側下肢への荷重率(以下荷重率,%)と重心動揺総軌跡長(以下LNG,cm)を算出した.荷重検査と同一日の左右臍果長をメジャーにて計測し,臍果長差の絶対値(以下脚長差,cm)を算出した.両群間の脚長差・荷重率・LNGの術前・術後1週・2週・3週・4週における経過の比較はBonferroni/Dunn法を用い,また各群内での術前から術後4週における脚長差・荷重率・LNGの相関関係をスピアマン順位相関係数検定にて解析した.有意水準は5%未満とした. 【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には研究の目的を十分に説明し理解を得た上で,同意書にサインを頂いた.【結果】 2群間の年齢,術側分布,JOAスコアに有意な違いはなかった.術前・術後1週・2週・3週・4週における脚長差(cm)は,正常群(2.6±1.0,0.6±0.5,0.5±0.4,0.4±0.4,0.3±0.4),THA群(1.4±0.9,0.7±0.7,0.6±0.5,0.5±0.4,0.3±0.4)となり,術前は正常群の脚長差が有意に大きく(p<0.01),術後両群とも有意な減少(p<0.01)を示し,術後1週~4週を通して両群間に有意な違いは見られなかった.荷重率(%)は,正常群(44.6±5.0,43.4±5.5,46.2±4.7,48.3±4.6,49.6±4.3),THA群(46.7±4.3,46.6±4.8,48.7±4.4,49.0±4.4,48.6±3.5)となり,THA群の荷重率は正常群と比較して有意に大きく(p<0.05),また正常群では術前と術後4週(p<0.05),術後1週と3週(p<0.05),術後1週と4週(p<0.01)間に有意な荷重率の増加が見られたが,THA群では術前後を通して荷重率に有意な変化は見られなかった.LNG(cm)は正常群(131.3±33.5,155.8±39.0,135.4±45.0,130.8±42.6,123.2±38.2),THA群(106.8±26.9cm,126.8±31.2,113.4±24.6,115.0±38.5,109.0±27.6)となり,両群とも術後1週でLNGは増加する傾向が見られたものの,術後4週にて術前の値にまで回復した.またTHA群のLNGは正常群と比較し,術前~術後4週を通して有意に小さかった(p<0.01).正常群における術後1週(r=0.58)および2週(r=0.50)での脚長差とLNG間にのみ有意な正の相関(p<0.05)が見られた.【考察】 THA群の荷重率は術前から高く,また術後も早期から術側への荷重が可能となる一方,正常群の荷重率は遅れて段階的に上昇する傾向がみられた. 我々は,初回THA患者において,反対側が末期の場合,正常群と比較し術後早期から術側へ荷重する事を報告(2009)したが, 反対側がTHAの場合も同様の結果となった.今回THA群のLNGは正常群より小さく,術後早期から術側への安定した荷重が可能となる可能性が示唆された.この理由として,大浦ら(2008),小林ら(2008)は,脚長差の改善に伴う下肢荷重バランスの改善を報告しているが,術前脚長差の違いが両群間における術後回復過程に影響した可能性が考えられる.また中川ら(2004)は,THA術後早期における関節位置覚の低下を報告している.推論の域を出ないが,反対側もTHAの場合は関節周囲の構成環境が近いため,正常群と比較し感覚誤認が少なく,結果的にLNGが少なく推移した可能性も考えられる.【理学療法学研究としての意義】 術側下肢の荷重特性を知る事は,術側下肢への荷重をコントロールするための着眼点を見出し,効率の良い理学療法の提供に役立つと思われる.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Cb1371-Cb1371, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205573483392
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- NII論文ID
- 130004693142
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可