積極的リハビリテーションは療養病棟の患者でも効果を出せるか?

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • 日中の人工呼吸器離脱に成功した重度頚髄損傷患者の1例

抄録

【目的】<BR> 療養病棟ではリハビリテーション(以下、リハビリ)標準算定日数を過ぎた患者が過半数をしめている。このような患者の多くが月13単位の制約を受け、あるいはリハビリ終了を余儀なくされている。今回、リハビリ標準算定日数が過ぎ、当院療養病棟に転院してきた人工呼吸器管理中の頚髄損傷患者に対して、積極的なリハビリを実施したことによって著明な改善を認めたので、その経過を報告する。<BR><BR>【方法】<BR> 症例は69歳男性。頚椎化膿性椎間板炎の診断名でK市内の病院へ入院。入院後に四肢麻痺を来たし緊急手術、気管切開下人工呼吸器管理となる。頚髄損傷の診断名で5ヶ月間のリハビリ実施後、療養病棟のある当院へ紹介入院。リハビリ標準算定日数を過ぎていたが、重度の頚髄損傷が算定日数除外規定であること、そして家族の強い希望があったことより、整形外科医師からリハビリ処方。損傷部位はC4の不完全型。四肢の自動運動は左肘関節屈曲と左肩関節外転のみ一部可能。呼吸筋は安静吸気筋である横隔膜の収縮は弱いが認められた。強制吸気筋である僧帽筋や胸鎖乳突筋等の収縮も認められたが、強制呼気筋である腹直筋等の収縮は認められなかった。なお、転院前に数回の人工呼吸器離脱訓練を実施するもCO2ナルコーシス等で離脱できず、車椅子乗車時はアンビューバッグを使用していた。また、肺炎を繰り返しており、当院入院時は胸水貯留、SpO2が90%前後であった。発声は困難だが意思疎通は可能。食事の経口摂取は困難。胃瘻造設。本症例に対して、当初は肺炎治療を中心に体位ドレナージ、呼吸筋ストレッチや横隔膜トレーニング等より開始。肺炎が改善してきたところで、主治医と相談の上、人工呼吸器離脱訓練(on-off法)を酸素流量2L/分、5分間より開始。SpO2が90%以下になれば終了とし、徐々に時間を増やして行った。20分以上可能となった時点で、左肘でナースコールできるよう、ビッグボタンを導入。経口摂取の可能性も視野に入れて頸部ROM訓練やマッサージを合わせて実施。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 今回の学会発表については当院倫理規定に基づき、主治医に相談後、個人が特定される情報は公開しないことを本人および家族に説明し、承諾を得た。<BR><BR>【結果】<BR> 人工呼吸器離脱訓練は、酸素流量2L/分、離脱時間5分間より開始したが、当院入院3ヶ月後には酸素流量2L/分で離脱時間1時間程度、10ヶ月後にはルームエアーで離脱時間8時間程度可能となり、12ヶ月頃には夜間以外は人工呼吸器の離脱が可能となった。SpO2は常時96~98%と安定してきた。離脱時間の延長とともにスピーチバルブ着用での発声が可能となり、家族や見舞客との会話でのストレスが改善された。さらに、当初経口摂取は困難と言われていたが、経口摂取も可能となった。<BR><BR>【考察】<BR> 今回、療養病棟における積極的リハビリによって、日中の人工呼吸器離脱に成功した頚髄損傷患者の症例を経験した。一般的にC4が残存していない場合には、終日の人工呼吸器管理が必要になると言われているが、本症例はC4の不完全型であった。前病院にて人工呼吸器離脱が困難であった理由として、横隔膜の動きが弱かったこと、肺炎を繰り返していたこと、そして呼吸苦への不安があげられる。横隔膜麻痺の回復は長期間を要するとの報告もあり、横隔膜の収縮力の回復と肺炎の改善および再発予防ができれば短時間の人工呼吸器離脱が可能ではないかと考えた。そこで横隔膜の収縮力向上を目的とした呼吸筋トレーニングや肺炎改善後の再発防止としての体位ドレナージを実施したことによって、短時間の人工呼吸器離脱が可能となったと考える。呼吸苦への不安に対して、人工呼吸器の離脱時間を決めて、段階的に時間を増加していくこと、その際SpO2が90%を下回れば、すぐに終了できるという安心感を与えるように努めた。また、左の肘を使って何時でもナースコールを押せるようビッグボタンを導入した。これらによって呼吸苦の不安が軽減し、日中の人工呼吸器離脱が可能となったのではないかと考える。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 療養病棟の患者の多くは、在宅復帰が困難であり、また、疾患管理等の理由で施設への入所制限あるいは入所拒否などの現状がある。さらに診療報酬上、これらの患者の多くがリハビリ標準算定日数を超えており、月13単位の制約、あるいはリハビリ終了を余儀なくされている。平成24年には診療報酬、介護報酬の同時改訂が行われる。今後、これらの患者に対して、リハビリが実施できなくなることだけは避けなければならない。維持期あるいは慢性期にある療養病棟の患者のリハビリが継続できるためには、これらの病期に携わる我々理学療法士は何らかの結果を出さなければならない。従って、本症例のような報告の蓄積が必要であると考える。<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), DbPI1371-DbPI1371, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573493504
  • NII論文ID
    130005017463
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.dbpi1371.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ