一般化可能性理論による健常若年成人の足圧中心測定法の検討

  • 石川 恵利奈
    山形県立保健医療大学大学院保健医療学研究科
  • 真壁 寿
    山形県立保健医療大学大学院保健医療学研究科

Description

【目的】<BR> 姿勢の安定性を評価するために,重心動揺計を用いた足圧中心(Center of Pressure,以下COP)の測定が行われている.そして,COPの指標には,動揺中心からCOPまでの距離の実効値(以下実効値),単位軌跡長,矩形面積など様々なものが用いられている.しかし,各指標において高い信頼性が得られるCOPの測定時間と測定回数は明らかになっていない.本研究の目的は,実効値と単位軌跡長,矩形面積において,高い信頼性を得るための測定時間と測定回数を明らかにすることである.<BR><BR>【方法】<BR> 対象者は健常若年成人12人である(男女各6名,平均年齢22±1歳).測定肢位は,Romberg肢位とMann肢位,片脚立位の3肢位を,開眼と閉眼の2条件で計6課題行った.各課題は60秒間10試行ずつ測定した.本研究ではボールを蹴る際に用いる足を利き足と定義し,Mann肢位では利き足を後方にした.片脚立位では利き足を支持脚とし,反対足の足底が支持脚の内果の高さとなるように挙上した.上肢は,全課題において体側に下垂した.また,開眼時には3m前方に目の高さに設置された指標を注視し,閉眼時には同様の指標を見てから閉眼した.疲労を考慮し,測定は1日に1肢位(開眼,閉眼)とし,3日間連続して行った.また,各試行間に30秒の休憩をはさんだ.なお,肢位や開眼,閉眼の順序はランダムに行った.測定機器は重心動揺計(Twin Gravicorder G-6100,アニマ社)を使用し,サンプリング周波数100Hzにて測定した.指標は,実効値,単位軌跡長,矩形面積を用いた.また,本研究では一般化可能性理論(generalizability theory,以下G theory)を用いて,COP測定法の信頼性を検討した.G theoryとは,一般化可能性研究(generalizability study,以下G study)と,決定研究(decision study,以下D study)からなる.G studyでは,測定時間と測定回数の2相完全クロス計画とし,被験者,測定時間,測定回数の各要因について分散推定量を求めた.そして,求めた分散推定量を用いて,信頼度指数(index of dependability,以下Φ指数)を求めた.D studyでは,測定時間と測定回数を変化させ,Φ指数を観察した.本研究では,測定時間を10秒間隔で10~60秒,測定回数を1~10回の範囲で変化させた.Φ指数は0~1の値をとり,“1”に近づくほど信頼性が高い.本研究では,Φ指数0.8以上で高い信頼性が得られたと判断した.<BR><BR>【説明と同意】<BR> 対象者には文書と口頭により本研究の目的と方法を説明し,同意を得ている.<BR><BR>【結果】<BR> 実効値のΦ指数が0.8以上となる各課題の測定時間と測定回数は,以下の通りであった.Romberg肢位では開眼時30秒6回,閉眼時20秒3回,Mann肢位では開眼時20秒4回,閉眼時10秒3回,片脚立位では開眼時20秒4回,閉眼時10秒4回であった.単位軌跡長では,全6課題において少なくとも10秒3回の測定を行えば,Φ指数は0.8以上となった.矩形面積に関しては,Romberg肢位では開眼時60秒7回,閉眼時20秒4回,Mann肢位では開眼時30秒6回,閉眼時20秒4回,片脚立位では開眼時60秒3回,閉眼時30秒5回であった.また,課題に関わらず全指標に共通して,測定時間よりも測定回数を増加した方が高いΦ指数が得られた.<BR><BR>【考察】<BR> 全6課題においてΦ指数が0.8以上となるのは,実効値で30秒6回,単位軌跡長で10秒3回,矩形面積で60秒7回であった.3指標を比較すると,全6課題に共通して,最も短時間かつ少ない測定回数で高い信頼性を得たのは,単位軌跡長であった.臨床において患者の疲労や効率性を考慮し,短時間かつ少ない測定回数で信頼性の高い測定値を得たい場合,単位軌跡長は有用な指標であることが示唆された.しかし矩形面積は,全6課題において高い信頼性を得るためには60秒7回の測定が必要であり,実際に使用するための有用な指標とは言えなかった.この理由は,矩形面積が前後・左右方向におけるCOP軌跡の最大振幅によって囲まれる長方形の面積であるため,1度のみの大きな動揺が結果に強く影響してしまうためだと考えられた.また,課題に関わらず全指標に共通して,測定時間よりも測定回数を増加した方が高いΦ指数が得られた.よって,1回の測定時間を延長すると疲労などの要因により信頼性が低下すると考えられた.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 全6課題においてΦ指数が0.8以上となるのは,単位軌跡長で10秒3回,実効値で30秒6回,矩形面積で60秒7回であった.臨床において短時間かつ少ない測定回数で信頼性の高い測定値を得たい場合,単位軌跡長と実効値は有用な指標であるが,矩形面積は有用な指標ではなかった.本研究では対象が健常若年成人であったため,今後この結果が高齢者や疾患を有する者にも適用できるか検討していきたい.

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573532032
  • NII Article ID
    130004581959
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p3062.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

Report a problem

Back to top