筋膜リリースの持続効果に対する検討(第二報)

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抄録

【はじめに】 筋膜リリース(Myofascial Release:以下MFR)は、異常な筋膜の高密度化と基質のゲル化を解消することを目的として用いられる。我々は第45回の同学術大会において、MFRを一度実施した際の効果が1日以上持続したことを報告した。筋膜の高密度化を生じている部位の下層の筋は短縮位、拮抗筋は延長位となり筋張力が低下し、ともに本来の筋収縮が行えい。そのことを踏まえ、第46回の同学術大会において、MFRを実施した筋の拮抗筋に対して筋再教育目的の運動を行いMFRの効果が増大したことを報告した。今回は、MFRを実施した筋に対して筋再教育目的の運動を実施し、治療効果に与えるか影響を検討したので報告する。【対象・方法】 対象者は体幹・下肢に既往がなく、SLR70°未満の健常者31名(男性15名、女性16名)とし、平均年齢は25.0(21-35)歳、身長・体重の平均値(標準偏差)はそれぞれ166.3(7.7)cm、58.6(11.8)kgであった。これら全被験者を男女均等に分けるため準無作為に以下の4群に分けた。MFRを施行した後、膝関節屈曲運動(運動)を施行するMFR&exercise(MFRex)群(8名)、MFRのみ施行するMFR群(7名)、運動のみ施行するexercise(ex)群(8名)、何も行わない対照群(8名)。MFRは大腿後面に対し、両側各180秒施行した。運動は、挙上した昇降ベッド上に腹臥位となり両下肢をベッドから降ろし、両股関節90°屈曲位、両膝関節60゜屈曲位、両足先が床に接地する肢位において、一側膝関節を60°屈曲位から120゜屈曲位までの求心性の運動とし、戻す際は他動的に行った。最大筋力予測式を用い1 Repetition Maximumを算出し、その40%相当の負荷で運動を0.5Hzの速さで40回実施した。測定はゴニオメータ(東大式)にて、自動・他動による下肢伸展挙上(Active/Passive Straight Leg Raising:以下ASLR/PSLR)の角度、立位体前屈(Finger Floor Distance:以下FFD)を計測した。また、端座位、膝関節90°屈曲位にて、ハンドヘルドダイナモメータ(ANIMA社製ミュータスF-1)を下腿遠位部に当て、運動時の静止性最大収縮を計測し、体重、脚長(膝裂隙より下腿遠位部)よりトルク値を算出した。測定時期は、介入前・MFR後(ex群・対照群は介入前測定より7分後)・運動後(MFR群・対照群は介入前測定より12分後)・1日後・2日後の計5回とした。測定は前向き無作為オープン結果遮断試験(PROBE法)にて行った。【分析方法】 各測定項目は、介入前との変化量を介入前の値で除した変化率を算出した。ASLRとPSLRおよびトルク値の左右差は対応のあるt検定を実施した。年齢・性別・身長・体重・介入前の各測定項目(ASLR・PSLR・FFD・トルク値)を共変量とした、反復測定による二元配置分散分析を行い、交互作用があったものに対し一元配置分散分析後、多重比較検定(群間はBonferroni法、測定時期はTukey HSD法)を実施した。有意水準は5%とした。統計解析ソフトはSPSS ver.12を用いた。【説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に基づき、事前に本研究の目的と内容および学会発表に関するデータの取り扱いについて説明し、十分に理解した上での同意を得て実施した。【結果】 ASLRとPSLRおよびトルク値の左右差に有意差を認めず、全被験者の結果を左右平均して取り扱った。共変量とした項目について交互作用は認められなかった。一方、測定時期と各測定項目の群間に交互作用を認めた。MFRex群はASLR・PSLR・トルク値において2日後まで有意に値が改善した。MFR群はASLRとFFDでは1日後まで、PSLRでは2日後まで有意に値が改善した。ex群はASLRとFFDにおいて運動後のみ有意に改善した。また、MFRex群はMFR群と比較しASLRとトルク値では運動後から2日後まで、PSLRでは1日後・2日後で有意に高値を示し、ex群と比較しFFDの運動後を除く全ての時期で有意に高値を示し、対照群と比較し全ての時期で有意に高値を示した。【考察】 今回は、SLRが70°未満でハムストリングスが短縮位にある者を対象とした。筋が短縮位だと、筋収縮時ミオシンがアクチンに対し十分に滑走することができない。また、筋膜制限によって、深筋膜と筋外膜との滑走や、深筋膜・筋外膜・筋周膜の弾性が低下した状態にある。しかし、MFRを実施し筋の伸張性が改善されることで筋節が正常な位置に近付き筋張力を発揮しやすくなり、さらには筋膜制限が解除され、伸張性としてSLR・FFDが、筋張力としてトルク値が改善したと考える。筋再教育の効果は、運動だけでは一時的であったが、MFR後に当該筋の運動を追加して実施することで、筋膜制限が解除された状態で正常に近い筋節の長さでの筋収縮を学習し、MFRのみよりも伸張性・筋張力ともに改善率は大きく、また持続したと考える。【理学療法学研究としての意義】 報告の少ないMFRの効果を明らかにすることでその有用性を証明すると同時に、臨床においてより効率的かつ有効な理学療法を提供することができるようになると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Cb1162-Cb1162, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573540608
  • NII論文ID
    130004693129
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.cb1162.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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