A2型ボツリヌス毒素によるラットヒラメ筋収縮の抑制

DOI
  • 坂本 勝哉
    熊本機能病院 総合リハビリテーション部 熊本保健科学大学大学院 保健科学研究科
  • 申 敏哲
    熊本保健科学大学大学院 保健科学研究科
  • 赤池 紀生
    熊本保健科学大学大学院 保健科学研究科

Abstract

【目的】<BR> ボツリヌトキシンはシナプス小胞がシナプス側の細胞膜の方に移動し、細胞膜と膜融合を起こすSNAREタンパク質を一部特異的に切断する。その結果シナプス小胞と細胞膜の膜融合が生じなくなり、神経伝達物質であるAchの放出が阻害される。その結果、骨格筋への神経筋伝達が遮断されるとされてきている。近年新しくA2型ボツリヌス毒素(A2NTX)が開発され我々はA2NTXがラットヒラメ筋収縮に及ぼす影響について研究を行った。<BR> 【方法】<BR> 本研究は8週から9週の雄のウィスター系RAT250g~300g(n=42)のを用いて、(1)トレッドミルランニングへのA2NTXの濃度依存性、(2)電気刺激にて間接と直接に筋刺激を行い、生体内ヒラメ筋張力のA2NTXの効果を検討した。<BR>A2NTXの濃度は0.03、0.1、1、3、10、20Unit/体重を、コントロール群は生理食塩水をヒラメ筋の膝窩部から2.7mm、踵部から2.7mmの位置に25μ&#8467;ずつ計50μ&#8467;ずつ筋注した。トレッドミルランニングは筋注当日から4日間走行時間を経時的に計測した。<BR>筋収縮の測定は筋注後4日目にラットヒラメ筋をin vivoの状態で摘出して29から31°CのO2とCO2の混合ガスで飽和したKrebs-Ringer液に潅流し、筋の末梢端をトランスジューサーに固定し筋収縮を観察した。筋の電気刺激は銀板電極を用いて挟み込むように筋を直接刺激し、持続時間3msecの矩形波電流、周波数を1、3、5、10、20、30、50Hz、電圧は100Vとした。神経刺激は吸引電極で神経を刺激し、持続時間1μsecの矩形波電流、周波数を1、3、5、10、20、30Hz 電流は10mAとした。なお電気刺激はA2NTXを注入した左と注入しなかった右のヒラメ筋で測定した。<BR> 解析は刺激波形および筋収縮曲線をA/D変換して、パーソナルコンピューターで筋張力を算出し解析を行った。統計にはトレッドミルランニングの走行時間、筋収縮共に二元配置分散分析 (ANOVA) を用い危険率5%を統計学的有意と判定した。<BR> 【説明と同意】<BR>本研究は熊本保健科学大学動物実験倫理委員会の承諾を受け行った。<BR>【結果】<BR> トレッドミルランニングでは投与したA2NTXの濃度に依存してコントロール群に比べ走行距離が減少した。<BR>筋収縮は筋の直接刺激では左右の筋の収縮にA2NTXの抑制効果は認められなかった。間接刺激(神経刺激)では筋注側のヒラメ筋において0.1、1、3、10、20Unit/体重の濃度で完全に筋収縮を抑制し、0.03Unitでは完全に筋収縮は抑制されなかったものの、部分的な抑制効果が認められ筋張力の低下が認められた。また反対側のヒラメ筋においても0.1、1、3、10、20Unit/体重の濃度で濃度に依存した部分的な抑制効果が認められ筋張力の低下が認められたが、その収縮力の低下には左右筋で大きな差が認められた。<BR> 【考察】<BR> トレッドミルランニングの走行時間、筋収縮の結果からA2NTXの0.1Unit注入以上の濃度でAchの開口放出が完全にブロックされる可能性が高く、A2NTXは神経終末部に作用し、運動に影響を及ぼすことが示唆された。またA2NTXを筋注した反対側のヒラメ筋でも間接刺激にて筋収縮張力の低下が認められ、A2NTXが神経系を逆行性軸索輸送して作用を発現するか、又は血液を介して反対側筋に影響を与えている2つの可能性が示唆された。よって若干の個体差はあるがA2NTXは濃度に依存して、ターゲットとしている抑制部位以外にも筋収縮に影響を及ぼすことがわかり、濃度によっては他の臓器や、筋、細胞レベルで影響している可能性が高く、今後も更なる研究が必要と考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 日本国内においては米国アラガン社のA1型ボツリヌス毒素製剤(商品名:ボトックス、Botox)が注射剤として筋性斜頸や美容外科領域において筋弛緩作用を応用した皺取りの目的で使用されている。近年では日本国内外で厚生労働省認可の保険適応下での、脳卒中後の痙性麻痺などの治療や治験で使用されてきている。今後、私たち理学療法士はA2NTXのような新たな薬物の作用、副作用を正しく理解し、適宜、理学療法の介入方法を模索することで、今後脳卒中片麻痺患者を中心とした痙性麻痺に難渋する患者の新たな回復を見出すことができる可能性があると考える。

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573557248
  • NII Article ID
    130005016762
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.aeos2003.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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