脳出血モデルラットにおける運動スキル訓練が運動機能回復およびシナプス可塑性関連タンパクに与える影響

DOI
  • 玉越 敬悟
    名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻
  • 石田 章真
    名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻
  • 濱川 みちる
    名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻
  • 中島 宏樹
    名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻
  • 嶋田 悠
    名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻
  • 石田 和人
    名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻

抄録

【目的】<BR>脳卒中後の運動介入は、中枢神経系の可塑的変化を引き起こし、運動機能の改善を導くことが知られている。さらに、運動の種類により運動機能改善及び中枢神経系の可塑的変化に差のあることが報告されている。先行研究では、感覚運動野損傷モデルラットや脳梗塞モデルラットに対する運動スキル訓練は、単純運動介入より麻痺側の運動機能回復及び中枢神経系の可塑性促進を及ぼすことが報告されている。しかし、その具体的メカニズムは不明な点が多い。本研究は脳出血モデルラットにおける運動スキル訓練が運動機能回復とシナプス可塑性関連タンパクに与える影響について検討した。<BR>【方法】<BR>実験動物にはWistar系雄性ラット(250~270 g)を用いた。対象を無作為に非運動群(ICH群)と運動スキル訓練群(ICHAT群)の2群に分けた。脳出血モデルは、深麻酔下にて、頭頂部の皮膚を切開し、頭蓋骨表面のbregmaから左外側3.0 mm、前方0.2 mmの位置に小穴をあけ、マイクロインジェクションポンプにつないだカニューレを頭蓋骨表面から6.0 mmの深さまで挿入し、コラゲナーゼを注入(200ml/U,1.2ul)して作成した。運動スキル訓練群には、全身の協調運動、運動学習が必要な訓練としてアクロバットトレーニングを介入させた。トレーニング内容は、格子台、縄梯子、綱渡り、平行棒、障壁の5課題で各コース長1 m移動させた。介入は、術後4~28日まで、1日4回実施した。ただし、術後4~6日の介入には必要最低限の補助を加えた。運動機能評価(ICH群;n=8,ICHAT群;n=6)には、Motor Deficit Score (MDS)(自発回転, 前肢把握, 角材歩行, 後肢反射を4段階で評価)、後肢の協調性評価として beam walking test(角材歩行中の後肢の使い方を7段階で評価)、 前肢及び後肢の機能評価としてhorizon ladder test(行動観察により四肢が梯子からの落下した割合と梯子を正確に把握した割合を評価)を経時的に実施した。組織学的評価は、脳出血後29日目における組織損失体積(脳出血により損失した脳組織の評価)と大脳皮質の厚さ(大脳皮質の萎縮度合いの評価)をHE染色(ICH群;n=9,ICHAT群;n=9)により解析した。さらに、長期的刺激により神経細胞体に発現かつ蓄積するΔFosBとシナプス可塑性関連タンパクであるsynaptophisinの免疫組織化学染色(ICH群;n=5,ICHAT群;n=5)を行い、運動機能回復時期(脳出血後14日目)における傷害側と非傷害側の感覚運動野を調べた。<BR>【説明と同意】<BR>本実験は名古屋大学医学部保健学科動物実験委員会の承認を得て行った(承認番号:22-027)。<BR>【結果】<BR>運動機能評価は、MDS、beam walking testでは、ICHAT群はICH群と比較して11,14日目に有意な回復を示し(P<0.05)、horizontal ladder testでは、ICHAT群はICH群と比較して21日目に梯子を正確に把握した割合が有意に高値を示した(P<0.05)。組織学的評価の結果は、組織損失体積と大脳皮質の厚さは両群に有意差はなかった。ΔFosB陽性細胞数は非傷害側感覚運動野でICHAT群はICH群と比較して有意に高値を示した(P<0.05)。また、synaptophisinの染色性を光学濃度で定量化したところ、非傷害側感覚運動野でICHAT群はICH群と比較して有意に高値を示した(P<0.05)。<BR>【考察】<BR>運動機能評価の結果から、脳出血モデルラットにおける運動スキル訓練は早期に運動機能を回復させることが示された。これは、組織学的評価の結果から、運動スキル訓練は、神経保護に作用するのではなく、非傷害側感覚運動野のニューロンに持続的な刺激を与え、シナプスの可塑性を促進させたためと考えられる。また、運動スキル訓練による運動機能回復は非傷害側感覚運動野が傷害側感覚運動野を代償機能して起こった可能性が考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>本研究は運動スキル訓練(運動学習が必要な訓練)が脳卒中後の運動療法として行動学的および組織学的に有効であることを示した。運動スキル訓練の更なる作用機序を解明することで効率的かつ効果的な治療法として理学療法に貢献できると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AeOS2004-AeOS2004, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573558400
  • NII論文ID
    130005016763
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.aeos2004.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ