地域在住高齢者における皮下脂肪厚・筋厚と近赤外光吸光度との関連について

DOI
  • 吉松 竜貴
    東京工科大学 医療保健学部 理学療法学科
  • 吉田 大輔
    国立長寿医療研究センター 認知症先進医療開発センター 在宅医療・自立支援開発部 自立支援システム開発室
  • 島田 裕之
    国立長寿医療研究センター 認知症先進医療開発センター 在宅医療・自立支援開発部 自立支援システム開発室
  • 小松 泰喜
    東京工科大学 医療保健学部 理学療法学科

抄録

【はじめに、目的】 高齢者に多いSarcopeniaは身体機能低下だけでなく死亡など重篤なリスクと関連するため、高齢者の骨格筋量評価は重要である。骨格筋量低下に肥満を伴うSarcopenic-obesityも潜在しており、骨格筋量と体脂肪量は同時に評価されるべきである。評価法として生体電気インピーダンス法が普及しているが、水分に影響されるため、体水分量の変化が激しい高齢者では正しく測定できないことも多い。代替法として我々は近赤外分光法(NIRS)に着目したが、NIRSが局所の組成をどれだけ反映しているかは明らかでなく、妥当性に疑問がもたれる。本研究の目的は、高齢者における皮下脂肪厚・筋厚とNIRS測定値との関連から、NIRSによる高齢者の筋量推定に関する妥当性を検証することである。【方法】 対象は健診に参加した地域在住高齢者93名とした。測定に先立ち、対象の年齢、性別、身長、体重、BMIを調査した。測定項目はNIRSの近赤外光吸光度(Optical density:OD値)、皮下脂肪厚・筋厚、筋力とし、全て利き手側か優位側で測定した。OD値は、NIRS体組成計(Kett科学研究所製Fitness Analyzer BFT-3000)で測定した。機器は2波長(OD1 = 937 nm, OD2 = 947 nm)を同時に使用する。測定部位は前腕と大腿の前面とし、座位で測定した。皮下脂肪厚と筋厚は、超音波画像計測器(Global Health社製みるキューブ)で測定した。OD値の測定と同姿勢で同部位を測定した。画像はPCに取り込まれ、付属のソフトウェアで組織の厚さを定量した。筋力として握力と膝伸展筋力を測定した。握力は、デジタル握力計(竹井機器工業社製TKK5401)を使用し、立位で測定した。膝伸展筋力は、デジタル下肢筋力計(モルテン社製MDKKS)を使用し、座位で椅子の脚と下腿遠位部をバンドで固定して等尺性筋力を測定した。2回測定し、最大値を記録した。統計学的分析として、男女間の属性、OD値、皮下脂肪厚・筋厚、筋力をt検定で比較した。次に、年齢、OD値、皮下脂肪厚・筋厚、筋力の関連をPearsonの相関係数にて検討した。その後、性別、測定部位別に重回帰分析を行いOD1に関連する因子を抽出した。独立変数は、年齢、各測定部位に対応した皮下脂肪厚・筋厚、握力(前腕部)または下肢伸展筋力(大腿部)とした。変数選択にはステップワイズ法を用いた。解析にはIBM SPSS statistics v19を使用し、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は国立長寿医療研究センター倫理委員会の承認を得て実施した。対象者からは書面にて研究参加の同意を得た。【結果】 男性は50名で、年齢76.0±6.5歳、BMI22.9±2.6kg/m2であった。女性は43名で、年齢75.7±6.9歳、BMI23.8±3.0kg/m2であった。男性のOD1は前腕で1.138±0.107、大腿で1.059±0.102、皮下脂肪厚は前腕で4.4±1.4mm、大腿で5.8±1.5mm、筋厚は前腕で31.6±2.4mm、大腿で18.7±4.3mm、握力は30.8±5.9kg、膝伸展筋力は1.15±0.35Nm/kgであった。女性のOD1は前腕で1.036±0.104、大腿で1.010±0.087、皮下脂肪厚は前腕5.0±1.9mm、大腿で7.5±3.3mm、筋厚は前腕で28.5±2.7mm、大腿で19.0±5.9mm、握力は19.6±5.9kg、膝伸展筋力は0.85±0.36Nm/kgであった。OD1、前腕の筋厚、大腿の皮下脂肪厚、握力、膝伸展筋力に有意な男女差を認めた。OD1は男性の前腕で皮下脂肪厚と、大腿でも皮下脂肪厚と有意に相関した(r = -032~-0.63)。女性も同様の関連を示した(r = -048~-0.51)。重回帰分析では、前腕部・大腿部ともに、OD1に寄与する有意な因子として皮下脂肪厚のみが抽出された(前腕:β= -0.40, p < 0.001;大腿:β= -0.54, p < 0.001)。【考察】 近赤外光は、波長が短いため深達力が低く、筋の表層までしか届かない。これは結果に反映されており、前腕部・大腿部ともにOD値は皮下脂肪厚と有意に関連したが、筋厚とは関連しなかった。しかし、人体を脂肪とそれ以外(除脂肪)に分けて考える二成分法に基づくと、OD値は除脂肪量を反映しており、骨格筋量の推定においても構成概念妥当性があると解釈できる。OD値と筋力の相関が低いこともOD値と除脂肪量の関連を支持していると考える。我々の別の研究では、OD値に身長と体重を加えることで、四肢筋量を高い精度で推定できることがわかっており、本研究の結果は逆説的にこれを支持している。NIRSは筋量推定時に重要な因子であると考える。【理学療法学研究としての意義】 我々は別の研究でOD値と身長、体重から四肢骨格筋量を推定する式を開発しており、本研究によりこの推定式の妥当性が保証された。NIRSによる四肢骨格筋量の推定は臨床に直接的に寄与する研究である。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ae0100-Ae0100, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573601792
  • NII論文ID
    130004692660
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ae0100.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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