慢性期脳卒中患者に対する集中的理学療法の効果について
説明
【はじめに、目的】慢性期の脳卒中後遺症患者において、在宅での生活の中で、加齢や活動量の低下により、廃用症候群をきたす者は多いと思われる。そのような患者に対し、集中的な理学療法を提供することで動作能力を向上させ、再び活動的な生活を行えるように支援していく事は重要である。我々は、このような慢性期の脳卒中後遺症患者に対して集中的な理学療法を行う中で、立位や歩行などの動作能力に改善を認める例をしばしば経験する。しかし、現状では、脳卒中慢性期理学療法の効果に関してのエビデンスは十分でない。本研究の目的は、慢性期脳卒中患者に対し、集中的な理学療法を実施し、その有効性について検討する事である。【方法】対象は、在宅生活の中で廃用症候群となり、一旦低下した動作能力を集中的リハビリテーションにより再び獲得する事を目的として、2006年1月から2012年9月の間に、当院リハビリテーション科に入院した脳卒中後遺症患者とした。その内、発症から入院までの期間が6カ月以上経過しており、装具や歩行補助具使用の有無に関わらず10mの歩行が自立した13例(男性7例、女性6例、年齢65.5±8.6歳)について後方視的に分析を行った。理学療法介入は、関節可動域運動や筋力増強運動、基本動作練習などの一般的な理学療法を行うとともに、リハビリ時間以外にも、安全性を十分に確保した上で、各症例に適した自主トレーニングを積極的に行わせた。また、必要に応じ、作業療法や言語聴覚療法が実施された。主な評価項目は、Functional Balance Scale(以下FBS)、Functional Movement Scale(機能的動作尺度、以下FMS)、10m歩行時間、上田式片麻痺回復グレード(下肢)、片麻痺の頸・体幹・骨盤運動機能検査(以下NTP stage)とし、入院時及び退院時にそれぞれ測定を行った。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には、本研究の調査内容及びその目的について十分な説明を行い、同意を得た。【結果】発症から当院入院までの期間は、63.2±66.6ヶ月であり、入院日数は50.9±25.3日であった。FBSについては、入院時34.6±10.2点から退院時40.8±9.6点へと有意(p<0.05)に改善を認め、FMSについても、入院時38.5±6.2点から退院時41.2±5.9点へと有意(p<0.05)に増加した。10m歩行時間では、入院時27.1±13.8秒であったが、退院時は18.0±8.3秒まで有意(p<0.05)に改善した。一方、上田式片麻痺回復グレード(入院時8.3±2.5、退院時8.3±2.5)、NTP stage(入院時3.7±0.6、退院時3.8±0.8)に有意な変化は認めなかった。【考察】一般的に、脳卒中患者の理学療法効果については、発症後6ヶ月を経過すると回復の伸びが悪くなると考えられている。しかし、新藤(1996年)や小泉(1992年、1998年)らは、一定のリハビリテーションを受け在宅生活を経験した後に、能力低下をきたした患者に対する再入院でのリハビリの有効性を示している。本研究では、このような患者に対して積極的な理学療法を実施した結果、下肢や体幹の運動麻痺そのものに回復は認めなかったものの、バランス能力や歩行を含む基本動作能力に改善が認められた。今回の対象症例は、在宅生活の中で廃用や不活発な生活形態による機能低下が生じた者であった為、入院による集中的な理学療法に加え、積極的に自主トレーニングを行った事で一日の活動量が増加し、廃用症候群の改善がもたらされたと考えられた。また、セラピストが直接動作指導を行いながら動作の反復練習を行う事で、より安全かつ効率的な動作パターンを獲得する事が出来たのではないかと思われた。【理学療法学研究としての意義】在宅生活の中で、運動機能の低下をきたした慢性期脳卒中患者に対し、積極的な理学療法を実施する事で動作能力の向上を図り、在宅生活が継続できるよう支援する事は重要である。在宅生活において、廃用症候群を作らないためにも、介護保険分野を含めた慢性期理学療法をより充実させ、そのエビデンスを蓄積していく必要がある。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48100239-48100239, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205573662976
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- NII論文ID
- 130004584793
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可