入院期慢性心不全患者における退院時歩行能力判別指標としての理学療法開始時下肢筋力および腎機能についての検討

  • 笠原 酉介
    聖マリアンア医科大学横浜市西部病院 リハビリテーション部
  • 横山 有里
    聖マリアンア医科大学横浜市西部病院 リハビリテーション部
  • 大森 圭貢
    聖マリアンア医科大学横浜市西部病院 リハビリテーション部
  • 井澤 和大
    聖マリアンナ医科大学病院 リハビリテーション部
  • 渡辺 敏
    聖マリアンナ医科大学病院 リハビリテーション部
  • 武者 春樹
    聖マリアンア医科大学横浜市西部病院 循環器内科
  • 笹 益雄
    聖マリアンア医科大学横浜市西部病院 リハビリテーション部

Description

【はじめに、目的】 慢性心不全(CHF)患者は,CHFの増悪により入院加療となった際に,退院時の歩行能力が入院前と比較して低下する症例が多く存在する. 退院時の歩行能力には,年齢や退院時に測定された下肢筋力が関連する.さらに,腎機能障害はCHF患者に高い割合で合併し,我々は先行研究において腎機能障害の合併も退院時の歩行能力に関連することを報告した(2011).しかし,退院時の歩行能力の障害を呈する下肢筋力ならびに腎機能障害の水準は明らかではない. 本研究の目的は,急性増悪にて入院となったCHF患者の,理学療法開始時に得られた下肢筋力および腎機能障害の指標が退院時歩行能力に与える影響と,歩行能力を障害する各指標の水準を明らかにすることである.【方法】 対象は,2009年1月から2011年6月までにCHFの増悪で入院加療となり,各診療科より理学療法依頼のあった連続254症例のうち,除外基準を満たさないCHF患者103症例である(76.6±11.4歳).除外基準は,歩行障害の原因となる整形外科疾患もしくは中枢神経疾患,不安定狭心症,コントロールされていない重症不整脈および指示動作困難な認知症を有する場合とした. 我々は,年齢,入院時脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),左室駆出率(LVEF),入院時血清クレアチニン値(Cr),入院時推算糸球体濾過量(eGFR)は診療録より後方視的に調査した.eGFRはCrと年齢を用いて,eGFR (mL/min/1.73m2)=194×Cr-1.154×年齢-0.203 (女性はこれに×0.739)として算出された.なお,我々は,車椅子による離床が獲得された後に,下肢筋力として等尺性膝伸展筋力を測定し,体重で除した値を算出した(kgf/kg). さらに我々は,退院時の歩行能力より,連続300m歩行が可能であり介助無しで病棟内歩行が自立したものを自立群,自立不可能であったものを非自立群として,2群に分類した.  統計解析は,自立群であることを目的変数とする単変量ロジスティック回帰分析を,年齢, 性別,BNP,LVEF,eGFR,等尺性膝伸展筋力を説明変数として行った.その後に,単変量ロジスティクス回帰分析の結果,P<0.2であった説明変数を用いて,自立群であることを目的変数とする多変量ロジスティック回帰分析を行った.さらに,多変量ロジスティック回帰分析でP<0.05未満であった変数を用いてreceiver operating characteristic(ROC)曲線による分析を行い,感度,特異度,およびカットオフ値を算出した.統計ソフトにはSPSS ver.12.0Jを用いた.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,ヘルシンキ宣言に従って実施され,対象者には研究の趣旨,内容および調査結果の取り扱いについて説明し同意を得た.【結果】 自立群を目的変数とする単変量ロジスティック回帰分析の結果から,年齢(P<0.05),性別(P<0.05),eGFR(P<0.05)および,等尺性膝伸展筋力(P<0.01),が選択された.また,これらの説明変数を用いた多変量ロジスティック回帰分析の結果,eGFR(P<0.05,オッズ比1.24,95%信頼区間:1.04-1.47)および,等尺性膝伸展筋力(P<0.001,オッズ比5.01,95%信頼区間:2.57-9.80)が自立群であることを予測する因子として抽出された。自立群であることを状態変数とするROC曲線から得られたカットオフ値は,eGFRは59.3 mL/min/1.73m2(曲線下面積0.69,P<0.01,感度65.2%,特異度27.0%),等尺性膝伸展筋力は0.28kgf/kg(曲線下面積0.84,P<0.01,感度84.8%,特異度27.0%)であった.なお,eGFRおよび等尺性膝伸展筋力のカットオフ値を同時に満たした場合は,自立群の存在率は97.4%(38症例中37症例が自立群)であり,両指標のカットオフ値を同時に満たさなかった場合は,自立群の存在率は18.2%(28症例中4症例が自立群)にとどまった.【考察】 急性増悪にて入院となったCHF患者では,入院時の腎機能低下および離床獲得時の下肢筋力低下が,退院時歩行能力の制限を予測する因子であるものと考えられた。また,両指標のカットオフ値を下回る場合は,高い割合で歩行能力の障害を呈することから,入院期の理学療法プログラム作成する際には,腎機能障害の把握や下肢筋力の評価が有用であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 CHF患者の退院時の歩行能力に関連する因子ついて,入院期の理学療法プログラムおよびゴール設定の上で有用な知見が得られた研究である.

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573679232
  • NII Article ID
    130004693274
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.da0996.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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