二重課題状況下での立位姿勢制御能力と脳活動との関係
説明
【目的】<BR> 二重課題法を用いた立位姿勢制御研究から,立位姿勢制御には前庭,視覚,体性感覚を統合させるための注意能力が必要であると考えられている。近年では,これらの研究結果をふまえ,認知課題遂行による立位姿勢制御能力への影響から転倒を予測しようとする試みや,この二重課題状況下そのものを訓練へと発展させたような報告が認められる。しかしながら,これらの報告はいずれも認知課題負荷による立位姿勢制御能力への影響または負荷された認知課題遂行能力への影響を捉えているだけであり,実際に脳内における干渉作用が生じているかどうかは不明である。そこで本研究では,二重課題状況下での立位姿勢制御中の脳活動を捉えることにより,脳活動レベルにおける干渉作用の影響を明らかにする。<BR>【方法】<BR> 対象者は健常大学生11名(男性6名,女性5名,平均年齢21±0.8歳)とした。すべての対象者は,静的状況下(認知課題なし)および二重課題状況下(単純課題の同時遂行,認知課題の同時遂行)にて立位保持を20秒間実施した。立位姿勢は上肢を体側に下垂し,両足部内側を合わせた閉脚立位とした。二重課題状況下ではストループ課題を用い,以下の2条件にて実施した;条件1)約2m先に設けた目標点を注視した閉脚立位保持後,色名と色文字が一致したストループ課題を遂行しながらの閉脚立位保持(単純課題条件),条件2)約2m先に設けた目標点を注視した閉脚立位保持後,色名と色文字が異なるストループ課題を遂行しながらの閉脚立位保持(認知課題条件)。各条件における立位保持ともに3回の遂行とし,疲労の影響および繰り返し効果を取り除くため,各条件の遂行には休息を取りなおかつ試行順をランダムとした。<BR> 脳活動の測定には機能的近赤外光分光法装置(functional near-infrared spectroscopy: fNIRS,島津製作所FOIRE-3000)を用い,光ファイバを一次運動野から高次運動野および前頭前野を覆うよう装着し(全測定チャンネルch44),各条件における脳血流動態を測定した。活性化の指標は酸素化ヘモグロビン(oxyHb)濃度長とし,各条件とも計算式(単純課題中および認知課題中のoxyHb濃度長の平均値)-(静的立位中のoxyHb濃度長の平均値) ╱ (静的立位中のoxyHb濃度長の標準偏差)によって効果量(Effect Size:ES)求め,測定領域毎に平均値を算出し各領域別に対応のあるt検定を用い比較した。立位保持能力は重心動揺計(アニマ社)を用い,総軌跡長および外周面積を測定し,条件間において対応のあるt検定を用い比較した。いずれも統計学的有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 実験参加に際し,対象者には文章および口頭にて十分な説明を実施し同意を得たものを対象とした。<BR>【結果】<BR> 脳活動(ES)では条件1と比較して,条件2において内側前頭前野領域および右外側前頭前野領域において有意な活性化が認められた(p<0.05)。また,左前頭前野領域,運動前野領域および運動野領域では有意差は認められないものの,条件2において増大傾向が認められた。重心動揺計測では総軌跡長および外周面積には条件間において有意な変化は認められなかった。<BR>【考察】<BR> 今回,二重課題条件下での立位保持中における脳活動を測定した結果,内側前頭前野および右外側前頭前野の活性化が認められた。内側前頭前野は感情の制御に関わっているとされており,今回はストループ課題の遂行によって「間違えないよう」といった感情的ストレスが加わったため活性化したのではないかと考えられる。右外側前頭前野についてはワーキングメモリー機能の中枢であり,特に右外側前頭前野は空間的な注意および選択的注意機能との関連が深いとされているため,立位保持中の認知課題の負荷によって活性化したと考えられる。今回,重心動揺については有意差が認めらなかったのは,健常若年者を対象としたためと考えられる。しかしながら,条件2では運動関連領野についても増大傾向であったため,認知課題の負荷によって注意機能だけでなく運動機能においても影響を及ぼしていると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究の結果より,立位保持中に課題を負荷することによって前頭前野を含めた脳活動の活性化をもたらすことが明らかにされた。これにより,これまで不明であった二重課題による影響を脳活動から明らかにすることができた。またこのことは,近年注目されている二重課題を用いたバランス訓練における効果が,注意機能を含めた脳機能においても効果を与える可能性が示唆された。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2009 (0), A4P3027-A4P3027, 2010
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205573694976
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- NII論文ID
- 130004581925
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可