2型糖尿病患者における振動覚低下は運動覚低下と関連し転倒リスクと成り得るか?
-
- 河江 敏広
- 広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門
-
- 永冨 彰仁
- 広島大学病院リハビリテーション科
-
- 平田 和彦
- 広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門
-
- 對東 俊介
- 広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門
-
- 島田 昇
- 広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門
-
- 日當 泰彦
- 広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門
-
- 松木 良介
- 広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門
-
- 史 明
- 広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門
-
- 伊藤 義広
- 広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門
-
- 中西 修平
- 広島大学病院 分子内科学 内分泌・糖尿病内科
-
- 木村 浩彰
- 広島大学病院リハビリテーション科
説明
【目的】 2型糖尿病患者における合併症として糖尿病性神経障害(DN)があり,成因としては高血糖による代謝異常と考えられている.その特徴としては末梢優位で左右対称のしびれなどの感覚障害を呈することが知られており,臨床においては脛骨内果の振動覚検査がDNの診断手法の一つとして用いられている.一方で2型糖尿病患者において振動覚と同様の上行性線維にて伝導路を構成する運動覚に関する報告は少なく,振動覚低下と運動覚低下が関連するか否かは不明である.健常者において振動覚や運動覚はバランス能力と関連することが報告されており,2型糖尿病患者においても振動覚や運動覚低下が転倒リスクになり得る可能性がある.そこで本研究の目的は2型糖尿病患者における脛骨内果振動覚と膝関節運動覚との関連を明らかにし,振動覚低下が転倒リスクと成り得るかを明らかにすることである.【方法】 当院に紹介のあった運動療法可能な2型糖尿病患者14名(男/女:6/8名,年齢:60.8±6.7歳,BMI:26.7±9.0kg/m2)を対象とした.振動覚の測定は十分な安静臥床の後C128音叉を用いて脛骨内果の振動感知時間を左右2回ずつ測定し,左右の平均値を算出した.運動覚の測定には固有運動覚・固有位置覚測定装置(センサー応用社,広島)を用いた.測定は対象者の視覚および聴覚情報の入力を防止するためアイマスク,ホワイトノイズが流れるイヤホン装着下にて実施した.測定は座位で行い,膝屈曲30°を開始角度とし,屈曲方向へ0.5°/secにて他動的に下腿を動かした.対象者には下腿が動いたと感じた時点でスイッチを押すように指示し,運動開始からスイッチを押すまでに経過した時間を運動覚誤差時間として記録し,左右の平均値を算出した.転倒歴の調査は過去1年間の転倒回数を調査し,転倒の定義は「自分の意志からではなく,膝,上肢,あるいは尻や腰などの身体部分が床面や地面などの低いレベルに接触すること」とした.データ解析として対象者を糖尿病性神経障害の簡易診断基準を参考に,脛骨内果振動感知時間10秒未満と10秒以上で分け,それぞれ10秒未満群,10秒以上群とした.統計学的解析として2群間の比較には対応の無いt検定およびFisherの正確確率検定,振動感知時間と運動覚誤差時間との関連にはSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準は0.05未満とした.【説明と同意】 本研究は広島大学病院疫学研究倫理審査委員会の承認を得た.また対象者に研究内容を説明ののち,同意を得てから測定を行った.【結果】 脛骨内果振動感知時間10秒未満群は8名,10秒以上群は6名であった.10秒未満群は10秒以上群と比較しFBS(247.9±107.4 vs 149.0±42.9 mg/dl:P=0.04),HbA1c(10.9±1.6 vs 8.5±1.6%:P=0.02)が有意に高値を示した.運動覚誤差時間は10秒未満群が10秒以上群と比較し有意に高値を示した(2.6±1.4 vs 1.3±0.5 sec:P=0.03).さらに振動感知時間と運動覚誤差時間の間には有意な負の相関を認めた(r=-0.63,P=0.03).転倒歴は10秒未満群で転倒経験ありが6名,10秒以上群で1名と有意差を認めた(P=0.03).【考察】 2型糖尿病患者を対象とし脛骨内果振動感知時間10秒未満と10秒以上で分類した結果,10秒未満群は血糖コントロールの指標であるFBS,HbA1cが有意に高値を示した.また,10秒未満群は10秒以上群と比較し運動覚誤差時間が有意に高値を示したことや,脛骨内果振動感知時間と運動覚誤差時間が有意な負の相関関係を示したことから振動覚低下は運動覚低下と関連することが示唆された.振動覚と運動覚はともにA線維を上行伝導しており,DNの発症機序の一つとして高血糖が報告されている.これらのことから,高血糖によりA線維が影響をうけ振動覚と運動覚が低下した可能性が推察された.さらに,健常者において振動覚は転倒を予測する因子であることが報告されており,本研究においては2型糖尿病患者で振動感知時間10秒未満群は10秒以上群と比較し転倒歴に有意差を認めた.そのため,健常者と同様に振動覚は転倒を予測する因子となりうることが予測され,2型糖尿病における転倒因子としては足底の感覚障害,筋力低下だけでなく振動覚低下も関連することが推察された.【理学療法研究としての意義】 2型糖尿病患者における脛骨内果の振動覚低下が膝関節運動覚低下と関連していることから,振動覚低下症例に対しては血糖コントロール目的の運動療法だけでなく,運動覚を向上させ転倒予防につながる理学療法プログラムの作成も必要であると考えられる.
収録刊行物
-
- 理学療法学Supplement
-
理学療法学Supplement 2011 (0), Db0569-Db0569, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- Tweet
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390001205573704064
-
- NII論文ID
- 130004693309
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可