姿勢変化における咳嗽能力変化量と呼吸機能変化量との関係

説明

【はじめに、目的】 咳嗽は気道の清浄と防御を目的に生じる生体防御機構の一つであり,分泌物除去を目的とする有効的な咳嗽は,気道クリアランスの面からも重要である.咳嗽能力の評価として咳の最大流量(Cough Peak Flow :CPF)が良い指標になるとされ,臨床上よく使用されている.CPFは呼吸筋力,肺活量と相関を認め,また姿勢の影響を受けると報告されている.我々の研究でも同様の結果を示し,またCPF,肺活量,呼吸筋力は端座位と比べ背臥位では低下すると当学会にて報告してきた.その中で姿勢変化におけるCPFの変化量を調べると,被験者により差が大きくみられた.このように,CPFに影響を与える因子や姿勢の影響についての報告は散見されるが,姿勢変化によるCPF変化量やその他呼吸機能の変化量との関係を検討した報告は少なく,なぜCPF変化量に大きく差ができるのか明らかになっていない. そこで今回,咳嗽能力(CPF)と呼吸機能(呼吸筋力,肺活量)の姿勢変化時の変化量を求め,それらの関係を調べた.そして姿勢変化におけるCPF変化量の要因について検討したので報告する.【方法】 対象は,喫煙歴がなく呼吸,循環器に既往のない健常成人男性17名(年齢21.9±1.5歳,身長171.0±5.8cm,体重61.1±6.3Kg)とした. 各対象者に対して無作為に背臥位,端座位の2姿勢で咳嗽能力(CPF),呼吸筋力(最大呼気圧:PEmax,最大吸気圧:PImax),肺活量(VC)を計測した.CPF,VCはチェスト社製マイクロスパイロHI-801を,呼吸筋力はチェスト社製口腔内圧計VITALOPOWER KH-101を使用し測定した.測定はいずれも各2回行い,最大値を採用した.そして,体位変換が与える影響の指標として端座位を基準とした背臥位になった場合のCPF,VC,PEmax,PImaxの変化量を求め,それぞれΔCPF,ΔVC,ΔPEmax,ΔPImaxとした.尚,CPF測定時には,対象者に最大吸気位より最大限努力した咳嗽を行なうように指示した.また各測定間には十分な休憩を設け疲労がないことを確認した. 統計学的処理として,ΔCPFとΔVC,ΔPEmax,ΔPImaxとの関係はPearsonの相関分析を行ない,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の目的や方法,リスク等を書面および口頭にて十分に説明し承諾を得た.また,本研究は大学倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】 ΔCPFとΔVC,ΔPImaxとの間に有意な相関を認めた(r=0.46,r=0.52)がΔPEmaxとの間には有意な相関を認めなかった.【考察】 咳嗽のメカニズムは4相からなるとされ,第1相は咳の誘発,第2相は深い吸気,第3相は声門閉鎖および胸郭圧縮,第4相は爆発的呼気流が生じるとされている.このように,有効的な咳嗽を行なうには,吸気・呼気両方の機能が必要とされている.今回,ΔCPFとΔVC,ΔPImaxとの間に有意な相関を認め,ΔPEmaxに認めなかったことから,端座位から背臥位になった場合に呼気機能よりも吸気機能の低下が大きいものほど,よりCPFの低下量が大きくなる可能性が示唆された.つまり,背臥位になることで吸気筋力が発揮にしにくく,咳嗽の第2相において深吸気が不十分となり吸気量を確保できないことが,咳嗽時の呼気量を増やせずCPFを低下させているものと思われた. これらのことから,端座位から背臥位に姿勢を変化させることでCPFやVC,PImaxが大きく低下する可能性が示唆され,例え端座位にてCPFが高値を示したとしても,背臥位では大きく低下している場合も考えられる.よって呼吸器合併症のリスク管理上,姿勢の変化における咳嗽能力を含めた呼吸機能の変化量を調べることも重要であると思われた.【理学療法学研究としての意義】 今までCPFに影響を与える因子や姿勢の影響についての報告は散見されてきたが,なぜ姿勢変化時にCPF変化量に差が生じるのか明らかになっていなかった.今回の結果から,端座位から背臥位になった場合に呼気機能よりも吸気筋力や肺活量の低下が大きいものほど咳嗽能力の低下が大きいことが示唆された. 姿勢変化における咳嗽能力を含めた呼吸機能変化量の特徴を検討することは,呼吸器合併症のリスク管理を含め理学療法の一助になると考えられる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Db0568-Db0568, 2012

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573707136
  • NII論文ID
    130004693308
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.db0568.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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