股関節外転筋エクササイズに対する筋電図学的検討

DOI
  • 中村 拓成
    新潟医療福祉大学医療技術学部理学療法学科
  • 地神 裕史
    新潟医療福祉大学医療技術学部理学療法学科

書誌事項

タイトル別名
  • 歩行立脚期へのアプローチに着目して

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抄録

【目的】<BR> 股関節の外転作用のある筋として中殿筋(以下,GMD),大殿筋上部線維(以下,UGM),大腿筋膜張筋(以下,TFL)が存在している.変形性股関節症(以下,変股症)では外転筋群の脆弱化を認めやすく, MRIを用いて変股症患者の外転筋体積を健常人と比較した研究では変股症群のGMDにのみ有意な低下が認められたと報告されている.また変股症患者の歩行の特徴として,GMDの萎縮により相対的に高い筋活動が強いられ,また骨盤の制御が適切に行えずTrendelenburg徴候が出現する.さらに,以上のような特徴を持つ変股症患者に対する股関節外転筋エクササイズは股関節屈伸中間位での外転運動が行われるが,それはGMDが主動筋でないとの報告もある.よって変股症患者の股関節外転筋エクササイズに関しては,よりGMDに焦点を当てる必要があり,さらにエクササイズ時と歩行時の外転筋活動割合が類似していれば特異性の法則から歩行へのアプローチとして有用であると考える.そこで本研究では一般的な股関節外転筋エクササイズと他の外転筋エクササイズにおけるGMD,UGM,TFLの筋活動量を比較検討し,併せて各エクササイズと歩行立脚期の筋活動割合を比較することにより,歩容改善を目的としたGMDの選択的エクササイズを検討することを目的とした.<BR>【方法】<BR> 対象は神経筋骨格系疾患の既往のない健常成人男性12名(平均年齢21.6歳)とした.測定課題は側臥位にて股関節外転10度を行う運動(以下,外転運動),股関節外転10°及び伸展10°を行う運動(以下,股伸展外転),股伸展外転に膝屈曲90°を加えた運動(以下,膝屈曲伸展外転),片脚ブリッジの4種類とし,その時の筋活動を計測した.また,併せて筋活動割合を比較するために歩行動作時の筋電図も測定した.測定部位は右GMD,UGM,TFLとした.エクササイズは3秒間の等尺性収縮とし,歩行動作はビデオカメラで記録しながら10m歩行を自由速度で行ってもらい,GMDの筋活動が最大となった時点の3筋の筋活動割合を解析した.各エクササイズ及びGMDの筋活動が最大となった時点の歩行立脚期における各筋の最大筋活動量を算出し,また各筋の筋活動量の合計を100%として各エクササイズ及び歩行立脚期における各筋の筋活動割合を算出した.<BR>【説明と同意】<BR> 対象者に本研究の目的と内容を記した書面に署名してもらうことで同意を得た.<BR>【結果】<BR> 各エクササイズ時の各筋活動を比較した結果,GMD の筋活動量は外転運動に対し膝屈曲伸展外転が有意に高い値を示した(p<0.05).TFLは外転運動に対し膝屈曲伸展外転が有意に低い値を示した(p<0.05).UGMは外転運動と膝屈曲伸展外転間で有意な差はみられなかった.股伸展外転,膝屈曲伸展外転のGMD筋活動量は歩行立脚期に対して有意に高い値を示した(p<0.01).筋活動割合は膝屈曲伸展外転が歩行時の股関節外転筋活動割合と最も類似していた.<BR>【考察】<BR> 今回施行したエクササイズの中でも股伸展外転,膝屈曲伸展外転は股関節を伸展した状態での外転運動である.GMDは股関節伸展位では伸展方向の分力を有するとされる.さらに膝屈曲伸展外転は膝関節屈曲90°での伸展外転であるためGMD前部線維による股関節内旋動作も加わる.よって膝屈曲伸展外転は外転運動に対して有意に高い値を示したと考える.また,TFLは腸脛靱帯に付着しており膝関節30°以上の屈曲で弛緩し,股関節の伸展動作により股関節屈曲外転作用を有するTFLの筋活動量は抑制され,膝屈曲伸展外転は外転運動に対し有意に低い値を示したと考える.UGMに関しては股関節伸展方向の運動を伴うが外転運動と有意な差が見られなかったことから伸展負荷は大きくなかったと考える.歩行動作への応用について,膝屈曲伸展外転のGMD筋活動量は歩行時に対して有意に高く,過負荷の法則に当てはまることからGMDを選択的に賦活するために適切な負荷量であったと考えられる.また,膝屈曲伸展外転は歩行時と同等の割合で各筋を賦活できていることから特異性の法則にも当てはまり,このような選択的なエクササイズにより歩容の改善も行える可能性もあると考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究から膝屈曲伸展外転が歩行時のGMD筋活動量よりも高く,さらに歩行時の筋活動割合に類似していることを明らかにした.よって,膝屈曲伸展外転が歩容改善のためのGMDの選択的なエクササイズであることが示唆され,変股症患者に対する効果的なエクササイズを考える上で有用な結果を得ることができたと考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AdPF1011-AdPF1011, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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