運動負荷頸動脈エコーによる左室拡張能運動応答性の評価の試み

DOI
  • 泉 唯史
    姫路獨協大学医療保健学部理学療法学科 岡山大学大学院医歯薬総合研究科国際環境科学講座公衆衛生学分野
  • 田中 みどり
    姫路獨協大学医療保健学部理学療法学科
  • 菅原 基晃
    姫路獨協大学医療保健学部臨床工学科
  • 住ノ江 功夫
    姫路赤十字病院検査室

抄録

【目的】 拡張不全型心不全に対す運動療法効果のエビデンスの構築には,運動負荷に対する左室拡張能応答に関する評価法の確立が必要である.しかし運動中の評価は極めて困難であるため未だ確立しているとは言えない.我々のこれまでの研究では,経胸壁心臓超音波検査による拡張能応答評価は運動強度の増加に伴って肺の膨張と横隔膜運動の増加およびペダリングによる体幹の動揺が超音波ビームの正確なサンプリングを困難にさせ,計測の大きな障壁となっていることを示した.本研究の目的は,頸動脈エコーにより心室と動脈系の相互干渉を定量的に扱う指標として提唱されているWave Intensity (WI) の理論を用いて得られる指標が,運動中の左室拡張能応答の客観的な指標となり得るかを確認することである.通常のWIにおいては,頸動脈直径変化を収縮期血圧および拡張期血圧から補正して得られる圧補正値の時間変化(dP/dt)と,頸動脈血流速(U)の時間変化(dU/dt)との積(dP/dt)(dU/dt)により得られる値の経時変化から2つの棘波を求めるが,運動に対する左室拡張能応答を評価するための漸増運動負荷ではこの理論をそのまま適用することはできないため,本研究においては頸動脈血管径の時間変化(dD/dt)を圧の時間変化(dP/dt)に替えて行う方法を採用した.【方法】 健常男性5名(平均年齢19.4±0.6歳)を対象とした。被検者はストレングスエルゴ240(以下SE240)(三菱電機エンジニアリング社製)上にて足部を固定し、5分間の安静を指示した. その後50rpmの回転で20W,3分間のウォーミングアップの後,20W/分のランプ負荷を行った.運動負荷頸動脈エコーについては,右総頚動脈において超音波診断装置プロサウンドα10(アロカ社製)を用いて頸動脈直径の時間変化(dD/dt)および頚動脈血流速の時間変化(dU/dt)を記録し,干渉波の第2波形(2nd Wave Density, 以下Wd2)を計測した.これらの計測を安静時より運動終了まで20秒に1回の割合で行った.また別の日程で同一被検者に対し,同一の運動負荷プロトコールにて経胸壁心臓超音波検査を組織ドップラー法にて行い,僧帽弁輪後退速度(Em)およびE/Emを得た.測定値の検討にはPearsonの相関係数を用い,有意水準5%にて判定した. 【倫理的配慮,説明と同意】 対象者には説明文書により十分に説明した上で同意書により同意を得た.また本研究は独立行政法人日本学術振興会による科学研究費の支給により行われる研究成果の一部である.従って研究計画審査の段階で生命倫理に基づく厳重な人権の保護と法令遵守に則った研究計画であると審査されている.【結果】 運動負荷強度の増加に対してEmは全ての被検者において有意な増加を示した(p<0.01).またE/Emは運動強度の増加に対して弱い負の相関を示した(r=-0.04~-0.33).一方,EmとWd2とは被検者5名中3名において有意な負の相関を認めた(r=-0.56~-0.511,いずれもp<0.01).他の1名はEmとWd2の運動負荷において極めて高い正相関を認めた(r=0.62, p<0.01).残りの1名は無相関(r=-0.05)を示した.またE/EmとWd2との関係では,いずれの被検者も有意な相関を示さなかった(r=-0.23~0.41). 【考察】 左室駆出期早期および収縮末期における動脈系の圧(P)と血流速(U)の時間微分の積として定義される.すなわちWI(=(dP/dt)(dU/dt)) は動脈圧の上昇と血流が加速する駆出早期と,圧が低下し血流が減速する駆出末期にWIは陽性の棘波を示す.とりわけ後者の陽性波の大きさは急速な左室弛緩による左室圧低下などが作用しており,駆出末期の拡張能を表現している.今回の運動反応として,拡張能評価として広く行われている組織ドップラー法によるEmとWI法の応用として計測したWd2とは大局的に見ると負の相関を示す被検者が半数以上いたが,全体としては一定の傾向を示さなかった.これは,Emが容量変化を伴わない拡張早期の弛緩を僧帽弁の後退速度として記録している一方,Wd2は駆出末期における左室の急速弛緩すなわち左室圧の急速な低下を表現していることから,駆出期から拡張期におけるいわゆる拡張能評価の時相の相違が影響しているものと考えられる.【理学療法研究としての意義】 左室拡張能の運動時応答を正確に評価する方法を確立することは,拡張不全型心不全患者に対する理学療法の適用や運動療法の効果判定などの客観的な指標となり得るため,きわめて重要である.今回の運動負荷頸動脈エコーを用いてWI理論の応用が確立させることができれば,経胸壁心臓超音波検査の困難性を克服することができ,運動強度と関連させてより正確に拡張能評価が行えると考えられる.とりわけ高齢高血圧患者の拡張不全型心不全においては,日常生活動作と心不全症状発現との関連性を評価し,指導していく上で重要な情報を提供し得る評価法となる可能性がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Db0555-Db0555, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573731840
  • NII論文ID
    130004693295
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.db0555.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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