短時間骨盤後傾坐位が立位姿勢及び片脚立位時骨盤側方傾斜に及ぼす影響

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【目的】<BR>端坐位は、生活時間の多くを占める姿勢の1つである。中でも臨床上多くの人が骨盤後傾坐位となっており、この骨盤後傾坐位が、その後の立位姿勢や歩行に姿勢性障害として悪影響を与える可能性が考えられる。この姿勢に起因するであろう事項の中でも今回は立位時の下肢支持機能や歩行能力に大きな影響を及ぼす中殿筋の機能評価の指標とされる片脚立位における股関節内外転角度に焦点を当てた。高齢者は中殿筋の筋力低下をきたしていることが多く、それに対して筋力増強訓練を試みても顕著な筋力向上が成されないことが多い。その原因として、先述した骨盤後傾位が予想される。そこで、短時間の骨盤後傾坐位が立位姿勢、片脚立位にどのような影響を及ぼすのかを検討する。<BR>【方法】<BR>対象は既往歴のない健常成人男性9名(平均年齢27±5歳)とし、計測機器にはレントゲン、デジタルカメラを使用した。レントゲン撮影は診療放射線技師が行った。各対象者には5分間の安楽坐位姿勢後、立位姿勢にて矢状面からレントゲン撮影を行い1)骨盤傾斜角度(平均60°)を測定し、両側上前腸骨棘、立脚側大腿骨内外側上顆の中点にマーカーを貼付し片脚立位を前額面からデジタルカメラで撮影し3点を結んだ角度を算出し2)立脚側股関節内外転角度とした。次に、5分間10°後方傾斜した板上に着座させ骨盤後傾坐位姿勢後、上記と同様の手順で1)2)を測定、得られたデータを画像解析ソフト「ImageJ」を使用し数値化し、前後関係をWilcoxonの符号付順位和検定を用いて検証した。<BR>【説明と同意】<BR>全対象者に対して本研究の趣旨を説明し、本人の承諾を得た上で計測を行った。<BR>【結果】<BR>安楽坐位姿勢後の立位骨盤傾斜角度(65.4±6.6°)と比較して、骨盤後傾坐位姿勢後の立位骨盤傾斜角度(64.2±6.8°)は後傾した(p<0.01)。安楽坐位姿勢後の立脚側股関節内外転角度(84.0±8°)と骨盤後傾坐位姿勢後の立脚側股関節内外転角度(84.9±7.4°)では有意差は認められず、対象者9名中6名は外転(2.32±2.69°)、3名は内転(1.96±0.51°)した。<BR>【考察】<BR>臨床上高齢者では特に、立位姿勢不良を改善させるためのアプローチとして、立位よりレベルを下げた坐位での治療アプローチを用いることが多い。本研究により短時間の骨盤後傾坐位姿勢によって直後の立位姿勢においても骨盤が後傾する傾向があったことで、骨盤後傾立位が骨盤後傾坐位に由来する場合が考えられ、立位時の骨盤の前後傾角度を改善させるために、坐位での骨盤の前後傾角度に対するアプローチが有効となる可能性も考えられる。そして、端坐位姿勢の改善を行うことで間接的に立位姿勢の改善を行うことになると考えられる。次いで骨盤後傾位での片脚立位についてであるが、先行研究で吉岡ら(2009)は「骨盤後傾位では股関節外転運動時の中殿筋による筋出力が低下する」、吉沢ら(2008)は「片脚立位時に骨盤傾斜が後傾するほど重心の位置変化が大きくなる」と立証している。本実験では骨盤側方傾斜を立脚側股関節内外転角度から検証したが有意差は認められなかった。トレンデレンブルグ徴候(T徴候)は、中殿筋の機能低下により股関節が内転し遊脚側の骨盤が下方へ傾くとされている。一方、デュシェンヌ徴候(D徴候)は中殿筋の機能低下により立脚側への体幹側屈が生じ結果として立脚側の骨盤が下方へ傾くとされている。本研究では、立脚側股関節の内転と外転の両者が生じたことから、内転群ではT徴候が、外転群では中殿筋の機能低下を上部体幹を立脚側に偏移させることで、重心を支持基底面内に留めようとした結果D徴候が生じたと考えた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>本研究では5分間という短時間にも関わらずこのような結果が得られた。しかし、長時間日常的に骨盤後傾位をとっている者は多く、中殿筋機能は低下すると予想される。したがって、理学療法介入時には適切な坐位姿勢を指導し、特に中殿筋の筋力増強訓練を行う上では骨盤の肢位を考慮することが必要だと考える。また、本研究の対象者は既往歴のない健常成人であるがこのような結果が得られた。高齢者では健常成人に比べ、筋力、関節可動域など多岐にわたる身体機能の低下が出現する。即ち、高齢者では健常成人に比べ骨盤後傾坐位がその後の立位姿勢、片脚立位に及ぼす影響が大きいと予想される。そして、臨床上坐位での骨盤後傾は習慣化した自然反応だが、本研究は強制的骨盤後傾であり、そのメカニズムは異なる。したがって、今後は高齢者での対照研究を行うとともに、自然坐位の骨盤傾斜角度を群分けし、さらに骨盤より上位関節の分析を含め、その影響を追究する必要がある。

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