頭頚部の屈伸角度が呼吸機能に与える影響

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抄録

【目的】<BR> 近年の理学療法では,早期離床の方針や延命治療の技術発展により,救命率は上がったが重篤な後遺症を残す患者も増えている.そのため体動困難な患者を対象とすることが多くなっている.ポジショニングは体位変換が困難な患者に対する予防的手技の1つとして行われることが多い.その際,頭頚部の肢位は呼吸状態に影響を与えていると感じる.先行研究では,頭頚部の肢位による気道抵抗は,屈曲位,伸展位の各々において増加するとされており,一様の報告がみられない.そこで本研究では頭頚部を屈曲位伸展位となるようにポジショニングを施し,頭頚部の肢位が呼吸機能に与える影響について検討した.<BR>【方法】<BR> 対象は健常成人男性12名(平均年齢21.3±0.7歳,平均身長172.6±5.4cm,平均体重61.5±4.4kg)とした.まず自然背臥位における対象者の頭頚部屈伸角度を測定した.次に,頭頚部角度を0度(0度位),伸展10度(伸展位),屈曲10度(屈曲位)となるようにポジショニングを施し,各肢位にて呼吸機能,僧帽筋,胸鎖乳突筋の筋硬度を測定した.呼吸機能はミナト医科学社製スパイロメータAS‐307を用いて努力性肺活量の測定を行い,%FVC,一回換気量,一秒量,一秒率,最大呼気流量を記録した.筋硬度は井元製作所製PEK-1を用い各筋の筋腹中央で測定した.各肢位での測定間に10分間の休息を安静臥位でとった.<BR> データ解析では,自然背臥位での頭頚部屈伸角度が0度以上伸展位にある群を伸展群,屈曲位である群を屈曲群とした.統計的解析は伸展群,屈曲群の比較を,各条件においてMann-WhitneyのU検定により行った.尚,統計処理にはSPSS ver.18.0を用い,有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR> 計測を行うにあたり,各対象者に対して本研究内容の趣旨を十分に説明し,本人の承諾を得た後,同意書に署名した上で計測を実施した.<BR>【結果】<BR> %FVCにおいて屈曲位(伸展群:92.8±11.1%,屈曲群:102.0±2.5%)では有意差が認められた (p=0.036).0度位(伸展群:97.0±14.5%,屈曲群:111.5±4.6%),伸展位(伸展群:96.0±14.0%,屈曲群:109.7±5.1%)では有意差は認められなかった(それぞれp=0.054,p=0.053).一回換気量においては,0度位では伸展群0.4±0.1L,屈曲群0.7±0.2 L(p=0.149),屈曲位では伸展群0.4±0.1 L,屈曲群0.5±0.2 L(p=0.227),伸展位では伸展群0.4±0.2 L,屈曲群0.5±0.2 L(p=0.262)であり有意差は認められなかった.一秒率では,0度位(伸展群:87.0±2.8%,屈曲群:81.4±3.6%)と伸展位(伸展群:88.6±4.2%,屈曲群: 82.1±3.9%)で有意差が認められた(それぞれp=0.025,p=0.037).屈曲位(伸展群:85.0±6.0%,屈曲群:80.8±2.9%)では有意差は認められなかった(p=0.078).最大呼気流量において,0度位では伸展群8.4±1.8L/s,屈曲群7.5±1.5 L/s(p=0.262),屈曲位では伸展群6.8±1.7 L/s,屈曲群6.4±1.4 L/s(p=0.749),伸展位では伸展群8.4±1.0 L/s,屈曲群7.1±1.7 L/s(p=0.15)であり有意差は認められなかった.僧帽筋の筋硬度において0度位では伸展群43.1±3.9,屈曲群45.0±5.1(p=0.630),屈曲位では伸展群42.3±3.3,屈曲群42.1±3.2(p=0.936),伸展位では伸展群42.8±4.4,屈曲群44.8±7.5(p=0.749)であり有意差は認められなかった.他の項目においても著明な差は認めなかった.<BR>【考察】<BR> 結果より吸気に関する測定値は屈曲群が,呼気に関しては伸展群が高い値を示した.一秒率,最大呼気流量では伸展群で値が高くなり,頭頚部の肢位では伸展位で増加した.これは伸展位では気道抵抗が減少し呼出しやすくなることが考えられる.一方で,%FVC,一回換気量では屈曲群で値が高くなった.僧帽筋の筋硬度は屈曲群でやや高い傾向であることから,屈曲位では吸息補助筋である僧帽筋の活動が高まり,%FVC,一回換気量の値が高くなったと考えられる.このことから頭頚部の肢位には呼気,吸気を促す,適した肢位があることが考えられた.頭頚部のポジショニングをする際,吸気を促すには屈曲位,呼気を促すには伸展位に誘導することが呼吸機能を改善する良肢位と考えられ,必要とされる目的により肢位を変化させる必要があることが示唆された.本研究では筋硬度計を使用した為,頭頚部の肢位が筋活動にどの程度影響を与えているか,その詳細は分からない.今後は筋電図などで活動性を確かめる必要がある.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究より背臥位での頭頚部のポジショニングは,その目的により適切な肢位の選択が必要であることが示唆された.今後は,対象者の選択や,疾患例なども考慮した測定を行う必要があり,呼吸機能だけでなく筋機能を踏まえた検討が求められる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AdPF1001-AdPF1001, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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