高齢者における足関節底背屈運動の至適運動速度の検討

書誌事項

タイトル別名
  • 大腿静脈血流速度における検討

説明

【目的】<BR> 2004年4月から肺血栓塞栓症の予防の新たな診療報酬が認められ、本邦においても肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドラインが作成された。肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドラインに記載されている予防法として早期離床および積極的な運動は推奨されており、臥床を余儀なくされる方でも簡便に行える方法として足関節底背屈運動は臨床で広く用いられている。しかし、運動速度や頻度については統一された見解がないのが現状である。先行研究において、足関節底背屈運動が大腿静脈血流速度に与える影響について検討されている報告はあるが、高齢者における検討は行われていない。肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症は加齢の影響を受けることから高齢者での検討は重要であると考えられる。加齢に伴い血管の変性が予想される高齢者において、大腿静脈の血流速度で最も効果が得られる足関節底背屈運動の速度指標を明確にする事を本研究の目的とする。<BR>【方法】<BR> 対象は高齢者10名(男性2名、女性8名)、平均年齢80.4±8.1歳、平均身長143.3±8.6cm、平均体重45.3±9.7kgであり、糖尿病、脳血管障害、心疾患等の既往がなく、Barthel Index60点以上(平均値90.5±15.6)で移動動作が自立している者を対象とした。測定時の姿勢は安静背臥位、膝関節伸展位とし、メトロノームのリズムに合わせて足関節を自動運動で底背屈させた。運動速度は40回/min、50回/min、60回/min、70回/min、80回/minの5通りに設定した。測定の順序はカードを用いてランダムとし順序性の影響を除外した。測定機器は東芝メディカルシステムズ社超音波画像診断装置Aplio XVを用い、被験者の右大腿静脈血流速度をパルスドプラにて測定した。測定中は臨床検査技師が被験者の鼡径部にプローブを同一部位、同一の圧で置き、体動や圧変化による血流速度への影響が出ないように細心の注意を払って行った。大腿静脈血流速度の測定は、背臥位にて安静を保持した5分後、それぞれの運動速度において運動開始後20秒から40秒の間でパルスドプラにて波形が安定した状態を視覚的に確認して測定した。統計的手法は安静時と各運動速度との間で相関分析(pearsonの相関係数)を行い、運動速度と血流速度の関係を検討した。また安静時血流速度と各運動速度において対応のある T検定を行い、有意確立は5%未満とした。統計ソフトはKyPlot ver5.0を用いて検討した。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究は当院倫理委員会の承認を得たものであり、被験者には研究内容に対する説明、個人情報の保護や参加の自由について十分に説明し同意を得た後に測定を行った。<BR>【結果】<BR> 安静時と各運動速度における相関係数はr=0.8であり強い相関を認めた。大腿静脈血流速度は、安静時、40回/min、50回/min、60回/min、70回/min、80回/minの順に41.63cm/sec、49.43cm/sec、53.24cm/sec、47.18cm/sec、40.18cm/sec、48.86cm/secであり、安静時と50/minとの間に有意差(p<0.05)を認めた。他の速度間には有意差を認めなかった。<BR>【考察】<BR> 大腿静脈血流速度は50回/minの運動速度で足関節底背屈運動を行った時のみ安静時との間に有意差を認めた。50回/minの運動速度のみ有意差を認めた要因として、下腿三頭筋の収縮と弛緩のバランスが影響していると推測される。静脈の環流動態の特徴として、筋収縮時には下腿内静脈や深部静脈は圧迫され血液は中枢へ勢いよく押し出され、筋弛緩時には下腿内静脈や深部静脈は筋肉の圧迫が解除され末梢からの血液を吸い込むという特徴がある。運動速度が速い状態では持続的収縮を行っているのに近い状態となり、筋弛緩による圧迫からの解放が得られず静脈還流が滞ってしまう。また、筋ポンプ作用の効果は、筋収縮の強度や貯留している血液によって影響を受け、筋収縮強度が強いほど、また貯留血液が多いほど多くの血液が押し出されるとの報告がある。貯留血液の減少が血流速度の変化に影響を及ぼしたのではないかと推測する。<BR>高齢者において足関節底背屈運動が大腿静脈血流速度を有意に変化させる運動速度は、速ければ良いというわけではなく50回/minという至適運動速度がある可能性が示唆された。本研究の限界として、対象者数が少ないことや大腿静脈血流速度の変化を運動中の一点でしか捉えていないことが挙げられる。今後の検討課題として、至摘運動速度での運動を行う患者の深部静脈血栓症発生率の検討、足関節底背屈運動での効果持続時間の検討などが必要である。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 理学療法の一環として各種疾患の予防は有益なものであると考えられる。今回の足関節底背屈運動の速度により血流速度の変化があるという結果を踏まえて、経験的に行われている術後の足関節自動運動などに明確な指標を提示できる機会になると考えられた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P3006-A4P3006, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573746944
  • NII論文ID
    130004581904
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p3006.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ