運動イメージ想起による脳卒中片麻痺の痙縮抑制効果の検証
Description
【目的】<BR> 脳卒中片麻痺患者にとって痙縮は残存する随意運動を障害するだけでなく、変形や拘縮、疼痛などの自覚症状を引き起こすため理学療法を進める上で大きな妨げとなる。したがって、痙縮コントロールはセラピストにとって重要な課題である。痙縮は、大脳から脊髄に至る中枢神経に生じる損傷、変性により引き起こされる。その生理学的メカニズムは、脊髄レベルでの伸張反射回路要素を基盤としたγ運動ニューロンの活動性亢進、筋紡錘感受性の上昇の関与が推測されている。さらに、皮質脊髄路レベルでのα運動ニューロンへの興奮性入力の増大および抑制性入力減少の関与も考えられるが、詳細は未だ不明である。痙縮を抑制させる代表的な理学療法として、末梢筋の持続伸張があげられるが、痙縮の出現メカニズムを考えれば、末梢からの介入のみでは不十分であり、中枢からの介入により痙縮抑制効果が得られるのではないかと考えられる。そこで我々は、痙縮に対する中枢からの介入として、近年リハビリ分野でも注目されている運動イメージ課題の可能性を検討した。本研究では、脳卒中片麻痺患者の痙縮に対して持続伸張と運動イメージの介入効果を比較し、運動イメージ想起の臨床的有用性を検証した。<BR>【方法】<BR> 対象は脳卒中片麻痺患者6名(年齢59.7±7.0歳、脳梗塞4名・脳出血2名、右片麻痺2名・左片麻痺4名)であった。痙縮の測定は、背臥位にて麻痺側膝関節伸展位から合図なしに落下させるPendlum Test(Wartenberg, 1951)を行い、下腿の動きを3次元動作解析装置(MAC 3D)にて解析後、先行研究に基づきRelaxation index(RI)を算出した。さらに筋電計(Myoresearch xp)を用い大腿直筋の伸張反射を測定した。運動イメージの想起は、円滑に落下する下腿の映像を見せ、実際の運動時に関節や筋に生じる感覚に注意を向け、運動イメージを想起させた。持続伸張は、Pendlum Test肢位にて大腿直筋を60秒間伸張した。測定条件は、介入なし、持続伸張、運動イメージの3条件とした。運動イメージと持続伸張はランダムに行い、各介入後に痙縮の測定を行った。統計学的検定には一元配置の分散分析を用い、有意水準p<0.05とした。各群の比較はBonferroniの多重比較検定にて行った。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には研究内容を書面と口頭にて説明し、研究参加の同意を得て行った。<BR>【結果】<BR> 持続伸張と同様に運動イメージ後にも痙性抑制がみられた。RIは介入なし1.1±0.32、持続伸張1.25±0.31、運動イメージ1.26±0.29であり、介入なし-持続伸張、介入なし-運動イメージに有意差が認められた。<BR>【考察】<BR> 痙縮は他動的に動かした時の抵抗として評価されるが、この抵抗には筋自体の性質や関節包、皮膚などの非反射性要素と伸張反射の反射性要素が含まれる。田中ら(2001)は痙縮筋に対する持続伸張後のH反射の変動において健常者と片麻痺患者において差が認められなかったことから、持続伸張は脊髄の興奮性を抑制するのではなく、筋紡錘感受性の変化を目的とした非反射性要素への介入であると報告しており、本研究における持続伸張の痙性抑制効果も非反射性要素への効果であると考えられる。一方、運動イメージと伸張反射の関係性は、運動イメージ中のH反射の測定により、その興奮性が確認されている(Hale,2003)。Patrickら(2008)は、100%と25%の強度で足関節を底屈する運動イメージ中のヒラメ筋のH反射を測定したところ、収縮強度25%の運動イメージより収縮強度100%の運動イメージの方が、より大きく興奮することを報告した。これらの所見は、運動イメージが想起される努力の強度で興奮性を変化できることを示唆する。伸張反射の抑制に関して、運動予測(Nashner,1976)や心理的努力(Stam,1989)により即時的に抑制できることが報告されている。そのメカニズムとして伸張反射の抑制学習が行われたラットを胸椎レベルの皮質脊髄路を切断したところ、ヒラメ筋のH反射に抑制効果が見られなくなったことから、皮質脊髄路を介した下行性信号の存在が伸張反射の抑制に必要であることが示唆された(Wolpaw,1997)。本研究における痙縮抑制の要因として、下肢が落下する運動イメージを想起することで運動の準備や予測といった意識活動が抑制性入力として働き、皮質脊髄路レベルでα運動ニューロンを制御したと考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 痙縮の反射性要素と非反射性要素に対し、持続伸張と運動イメージ介入の実施により痙縮抑制を行い、運動麻痺の改善やADLの拡大を行っていきたい。
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2009 (0), B4P3104-B4P3104, 2010
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205573764224
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- NII Article ID
- 130004582182
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed