理学・作業療法士(療法士)における他者への共感性と自尊感情との関係

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抄録

【目的】現代の若者気質の一つとして,学業及び仕事を成し遂げる努力を軽視し,現実を自分に都合よく解釈することが挙げられる.偽りの自尊心を持つ若者は周りと望ましい人間関係を形成出来ず,他者にあまり共感しなくなる.若い理学・作業療法士もヒューマンサービスの提供者を志向しているので,前述のような若者気質を持つとは考えにくい.しかし,今後他者への共感性が乏しい若い療法士が多くなれば,サービスの受け手であるクライエントに対する対人行動,援助行動,倫理性配慮に問題が生じることが予想される.今回,療法士の他者への共感性を認知的要素と情動的要素を含めた多次元的視点から測定し,自尊感情との係りについて検討した. <BR><BR>【方法】対象は質問紙調査の趣旨を了承した療法士95名(男性31名,女性64名,平均年齢32.7±8.2歳)であった.質問紙調査(留め置き法)時期は2009年7~8月であり,調査票は基本属性,自尊感情尺度(山本ら1982,10項目)及び多次元共感測定尺度(桜井1988,16項目)であった.統計学検討はSPSS VER.16.0Jを使用し,多次元共感測定尺度についてプロマックス斜交回転による探索的因子分析を行った.<BR><BR>【説明と同意】対象者は本研究の趣旨を了承した者であり,調査票表紙には「調査票は無記名であり,統計的に処理されるため,皆様の回答が明らかにされることはありません」と明記されていた.<BR><BR>【結果】自尊感情得点の平均値は31.2±5.8点であり,性別比較(Student t-test, p=0.20),年齢階級別比較(ANOVA, F(3,94)=0.21,p=0.11)では有意な差を認めなかった.自尊感情測定尺度は5件法,10項目であり平均得点31.2はほぼ平均といえる.また,性別,年齢階級に差を認めなかったことから,本研究の対象者には自己不満足,自己拒否などといった自己を貶める感情はみられないといえる.一方,多次元共感測定尺度では因子負荷量を.40以上,固有値1以上を項目決定基準とした結果,4因子が抽出された(Cronbachα係数:.79~.57).第1因子には「困っている人がいると,かわいそうという気持ちになる」,「不公平な扱いをされている人をみると,かわいそうと思う」などの項目が含まれ「共感的配慮」と命名した.第2因子には「緊急な状況でも不安な気持ちにならない」,「こんな事が起こるのではないかと,起こりそうな事をよく想像する」などの項目が含まれ「空想」と命名した.第3因子には「映画や劇を観ているとのめり込む」,「よい本や映画に夢中になる」などの項目が含まれ「感情移入」と命名した.第4因子には「人を批判する前に,もし自分がその人であったなら,どう思うか考える」,「何かを決定する時には,自分と反対の意見を持つ人の立場にたって考える」などの項目が含まれ「視点取得」と命名した.本研究の対象者には他者への共感性のうち,情動的要素に含まれる「共感的配慮」,「空想」,「感情移入」の各因子が,認知的要素として「視点取得」が抽出されたが,桜井の報告にある「個人的苦悩」は抽出されなかった.また,自尊感情得点と4因子の得点間には有意な関係(Pearson相関関係)を認めなかった.これらのことから,本研究の対象者は偏った自尊感情を持たず,他者に対して情動的共感を有する者であったといえる. <BR><BR>【理学療法学研究としての意義】療法士の資質の一つである他者への共感性を多次元的視点から測定し,自尊感情との関係を検討した報告は初めてである.また,本研究で使用した2つの尺度で他者に対する意識の個人差を測定できることを明らかにしたことは意義がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), G4P2333-G4P2333, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573791488
  • NII論文ID
    130004582987
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.g4p2333.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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