若年男性における末梢への物理療法刺激後の血管内皮機能

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抄録

【目的】 動脈硬化の進展は,脳心血管疾患を発症の最大リスクであり,動脈硬化の進展の予防は健康寿命延伸のためにも重要である.動脈硬化の初期には,血管内皮機能障害が生じるといわれる.血管内皮機能は血流の変化から様々なサイトカインを分泌し,血管の進展性や炎症反応に寄与している. 理学療法の対象者として多い脳血管障害患者に対して,疼痛軽減や痙縮軽減のために,温熱療法や寒冷療法などの物理療法が処方されることが多くみられる.しかしながら,そのような物理療法刺激が血管内皮機能に影響を及ぼすのかについてはまだ明らかにされていない.そこで本研究では,若年者を対象に物理療法刺激が血管を拡張する血管内皮機能に影響を及ぼすのかについて実験研究によって明らかにすることを目的とした. 【方法】 研究の対象者は,健常男性26名(年齢20-21歳)であった.筆者の先行研究により,喫煙による影響が考えられたため,喫煙者と非喫煙者で群分けを行った.その結果,対象者の内訳は喫煙者13名,非喫煙者13名となった.血管内皮機能は,endo-PAT 2000(Itamar Medical社)を使用して,指-振動計測による反応性充血指数(RHI)により評価した.血管に血流が流れる際には,血管を拡張し,その拡張機能は血管内皮から分泌される一酸化窒素(NO)と血管平滑筋の反応性に依存する.endo-PAT2000は,内皮由来の血管拡張機能を測定する.物理療法刺激は,駆血側前腕に対し,温熱療法では10分間のホットパック,寒冷刺激では10分間の持続アイシングを行った.RHIは,安静時と温熱刺激後および寒冷刺激後に測定した.また,体重体組成計HBF-362(オムロンヘルスケア社)を使用して体重,体脂肪率,骨格筋率を測定した.身体活動量を姿勢と強度から一日のPAを推定する肢位強度法(PIPA)を使用し,問診によって一日の行動記録を調査して算出した.統計解析は,安静時と温熱刺激後および寒冷刺激後のRHIの比較には,各群で一元配置分散分析および多重比較法としてDunnett法を用いた.また,喫煙群と非喫煙群のアウトカムの比較には対応のないt検定を使用した.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,研究参加の自由,研究の中断・中止の自由,不参加あるいは中断した場合も対象者自身に不利益を被ることがないこと,個人情報の保護について説明した.また,個人情報は,研究終了後は安全な方法で速やかに破棄した.以上のことは,書面と口頭で説明し,同意書への署名を得たうえで,研究を開始した.【結果】 RHIは喫煙群で安静時1.71±0.28,温熱刺激後1.86±0.44,寒冷刺激後1.92±0.69,非喫煙者群で安静時2.14±0.58,温熱刺激後1.99±0.53,寒冷刺激後1.93±0.54であった.安静時とそれぞれの物理療法刺激後の間では有意差は認められなかった.また,喫煙者群と非喫煙者群の比較では,安静時のRHIにおいて有意差が認められた(p<0.05)が,他の比較では,有意差は認められなかった.【考察】 RHIは安静時に喫煙者と非喫煙者の間で有意差が認められた.喫煙により,血管内皮から分泌される血管拡張因子であるNOの産生低下や交感神経活性によるNO機能の減弱が報告されている.本研究の結果,若年者かつ短期間の喫煙習慣においても血管内皮由来の血管拡張機能に影響を与えることが示唆された.また,仮説では,非喫煙者においては温熱刺激では血管が拡張され,寒冷刺激では血管が収縮し,喫煙者ではこの機序に何らかの障害が生じるのではないかと考えたが,本研究では,温熱刺激でも寒冷刺激でも非喫煙者では血管収縮し,喫煙者では血管拡張するという結果であった.皮膚血管では,動静脈の血管吻合が多く,ほぼ完全に交感神経支配されている.今回,前腕での物理療法刺激が一時的に交感神経刺激を誘発し,血管収縮からの血流低下を生じ,それが末梢の指尖動脈での血管収縮として,RHIが低下したと考えられる.喫煙群では何らかの原因により上記反応が阻害され,交感神経活動の抑制による血管拡張が生じた可能性が考えられる. 【理学療法学研究としての意義】 動脈硬化による血管病変を主因とする理学療法対象者は増加している.若年期からの血管内皮機能傷害の機序を明らかにすることは今後ますます重要となる.また,本研究は,今後脳血管障害患者や中高年の喫煙者などで調査していくことで,物理療法施行時のリスク管理にも貢献する研究である.【謝辞】 本研究は,日本学術振興会の科学研究費助成事業(22700553)の助成を受けたものである.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100278-48100278, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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