不安定型骨盤骨折保存治療症例に対するリハビリテーションについての報告

  • 冨士 佳弘
    大阪府立急性期・総合医療センター リハビリテーション科
  • 奥田 真規
    大阪府立急性期・総合医療センター リハビリテーション科
  • 渡邉 学 MD
    大阪府立急性期・総合医療センター リハビリテーション科
  • 久保 範明 MD
    大阪府立急性期・総合医療センター 救急診療科

Description

【目的】当センターでは、2008年1月より救急診療科に専属理学療法士を2名配置し、症例によっては搬送当日からリハビリテーション(以下、リハ)を実施している。救急診療科では、外傷症例が多く不安定型骨盤骨折症例がその1つである。不安定型骨盤骨折は、骨盤内において前方および後方の不安定性を伴うものであり、容易に転位が生じる危険性の高い骨折である。また、通常は手術適応となる骨折である。しかし、当センターでは多発外傷症例が多く、不安定型骨盤骨折症例でありながら合併症のために手術困難となることがある。不安定型骨盤骨折保存治療症例のリハでは、荷重による骨折部の転位が生じる危険性や激烈な疼痛の出現など理学療法士にとって不安要素が多い状態となる。現在、AOの系統的骨折分類Type BおよびC損傷である骨盤骨折保存治療症例のリハ介入およびその効果についての報告は少ない。今回、当センターにおける不安定型骨盤骨折保存治療症例へのリハの取り組みとその結果について報告する。<BR>【方法】2008年1月から2009年2月までに当救命救急センターに搬送された不安定型骨盤骨折症例が33症例存在した。心肺停止・早期死亡・早期転院した症例を除く12症例のうち、保存治療を行ったAOの系統的骨折分類Type B2からC1損傷を呈した7症例を対象とした(男性5名・女性2名、平均年齢45.9±21.0歳、合併症として頭部外傷および一肢以上の骨折を含む)。これらの症例に対し、専属理学療法士が可能な限り第1病日から床上リハを開始し、呼吸・循環の安定化を待ち、疼痛自制内で離床を進めた。受傷後6週目に担当医がX線CTスキャンで評価を行い、骨癒合良好と判断された場合に部分荷重を開始し、歩行能力の向上に努めてきた。今回は、離床日、部分荷重開始日と、退院前評価の機能評価としてROM検査、MMT、FIM、消炎鎮痛剤処方の有無にてリハの効果を評価した。<BR>【説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に則り、患者および患者家族への説明と同意を得ている。<BR>【結果】離床日24.0±12.4病日、部分荷重開始日42.6±1.8病日、退院前評価日102.1±25.7病日であった。また、退院前評価時のROM検査は、股関節屈曲105.8±21.3度、伸展9.1±7.4度、外転30.0±15.2度、内転11.6±7.5度であった。退院前評価時のMMTは、腸腰筋3&#12316;5レベル、大殿筋2&#12316;5レベル、中殿筋2&#12316;5レベル、内転筋群4&#12316;5レベルであった。退院前評価時のFIMにおいては、合計113.0±5.0点、歩行を含む13の運動項目の平均は6.5±0.31点であった。退院前評価時の消炎鎮痛剤処方症例は1人もなかった。<BR>【考察】専属理学療法士が超早期よりリハ介入し、脊柱から骨盤へ伝達される力と、体重に対する寛骨臼や恥骨結合にかかる床反力を配慮し、骨折部位とは反対側の骨盤に荷重する肢位を指導したことが、疼痛の出現しにくい肢位につながり早期離床が可能になったと考える。また、部分荷重開始後も担当医との連携を密にして疼痛自制内での歩行を指導したことが廃用症候群の防止やADL向上につながったと考える。退院前評価時のROM検査は、健側と比較すると80%以上の回復を得ることができた。退院前評価時のFIMでは修正自立レベル以上の運動能力を獲得できており、合併症である骨盤以外の骨折による影響は最小限に抑えることができた。これらは超早期からリハ介入し、担当医との連携を保ち、積極的にリハを進めてきた効果と考える。退院前評価時の消炎鎮痛剤処方症例はなく、疼痛の訴えは合併症である大腿部や下腿部の骨折による軽度の荷重時痛のみであった。受傷当初での高頻度の薬剤使用を考えると、疼痛の出現しにくい肢位を指導としたことによる疼痛コントロールは良好であったと考える。しかし、退院前評価時においても大殿筋および中殿筋の筋力低下が認められており、不安定型骨盤骨折症例に対する保存的治療においては部分荷重開始前および部分荷重開始からの積極的な筋力トレーニングが必要であると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】不安定型骨盤骨折保存治療症例におけるリハ効果についての報告が少ない中、荷重による骨折部の転位が生じる危険性や激烈な疼痛の出現など理学療法士にとって不安要素が多い中でのリハを展開した。今回、超早期より疼痛の出現しにくい肢位を運動学に基づいて指導し、動作時の疼痛を最小限にしたことが、骨折部の大きな転位やリハの進行を妨げるような疼痛の出現を招くことなく、早期離床および廃用症候群の予防につながったと考える。また、超早期からのリハ介入にも関わらず、患側の中殿筋および大殿筋の筋力低下を呈したことは、今後のリハの取り組みにおける検討課題になりうると考える。<BR>

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573817856
  • NII Article ID
    130004582222
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c3o1110.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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