大腿骨頚部前捻角の違いが歩行時の膝関節運動に及ぼす影響(第2報)

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抄録

【目的】<BR>変形性股関節症に随伴して発症する変形性膝関節症(coxitis knee)は、有病率の高さが指摘されながらも、その発生機序は明らかにされていない。本国における変形性股関節症の原因の大多数が、臼蓋形成不全を基盤とする二次性の股関節症といわれているが、大腿骨にも特徴があるという報告が多数みられ、代表的な特徴として過度の大腿骨頸部前捻角(以下前捻角)があげられる。我々は第44回日本理学療法学術大会にて、前捻角正常群と過度前捻角群間において、歩行立脚期における膝関節内外反運動に違いがあることを報告した。今回は前捻角の違いが歩行立脚期中の膝関節運動に及ぼす影響をさらに明確にすることを目的とし、前捻角と膝関節内外反角度及び膝関節内外旋角度との関係を調査した。<BR>【方法】<BR>対象は、本研究の主旨に同意の得られた中枢神経疾患、整形外科疾患既往のない健常成人20名(男性11名、女性9名、26±6歳)とした。分析課題は定常歩行とし、三次元動作解析装置VICON(Vicon-peak社製)を用いて計測した。マーカー添付位置は両側上前腸骨棘・両側上後腸骨棘の中央・大転子・大腿骨内外側上顆・脛骨内側顆・腓骨頭・脛骨内果・腓骨外果とし、それぞれの座標系を用いオイラー角を算出した。三次元動作解析装置から得られたデータをBodyBuilder(Vicon-peak社製)を用いて計算式を導入した上で、1)膝関節内外反、2)膝関節内外旋、3)大腿内外旋、4)下腿内外旋の角度を算出した。立脚初期の膝関節内反ピーク値及び立脚後期の外反ピーク値を膝関節内外反角度とし、膝関節内外旋、大腿内外旋、下腿内外旋角度は、膝関節内外反ピーク値出現時の値を用いた。前捻角はCraigテストにて計測し、上記1)~4)の角度との関係を調べた。統計処理はそれぞれの平均値を解析値としてPearsonの積率相関係数を用いて検定をし、有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>研究参加者に対し本研究の目的・方法を十分に説明した上で、「ヘルシンキ宣言」に基づいたインフォームド・コンセントを行い、同意書を用いて本研究への参加協力の同意を得た。同意書は研究代表者と研究参加者の双方が保管することとした。<BR>【結果】<BR>前捻角と膝関節内外反角度の関係では、前捻角と立脚初期の内反角度に相関は認められなかったが、前捻角と立脚後期の外反角度に有意な相関が認められた(r=0.60、p<0.01)。また前捻角と膝関節回旋角度及び大腿骨回旋角度には相関は認められなかったが、前捻角と立脚初期の下腿回旋角度に有意な相関が認められ(r=0.53、p<0.01)、前捻角が大きくなるほど下腿の内旋が強まる傾向がみられた。<BR>【考察】<BR>歩行立脚期における膝関節内外反運動は、初期に内反、後期に外反となるサインカーブを示す。変形性膝関節症の特徴的な現象としてみられるlateral thrustは立脚初期にみられる脛骨の外旋を伴う急激な膝関節の内反運動といわれているが、過度な前捻角を有する変形性股関節症の場合、立脚後期の膝関節外反運動を強め、外側型の変形性膝関節症を誘発する可能性が示唆される。また前捻角の影響は立脚初期の下腿回旋にみられることから、過度な前捻角を有する変形性股関節症に対しては、立脚初期の下腿内旋を制御させる方略がcoxitis kneeの増悪を予防するために有用であると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>coxitis kneeの発生機序や頻度に対する報告は散見するが、多くは脚長差の代償的な対応として膝関節の内外反運動が生じると述べられている。ただ単に「脚長差」という現象をcoxitis kneeの主原因と捉えてしまうと、理学療法士としての視点は狭小化し、その対応は限られたものになる。理学療法士としてはKinematicsやkineticsを元にそのメカニズムを明確にする必要があり、今回は変形性股関節症の一要因である大腿骨頚部前捻角の違いが、膝関節内外反角度、大腿・下腿の回旋角度に及ぼす影響にフォーカスを絞り調査した。今後は変形性股関節症における足部・下腿・大腿・骨盤にみられる運動特性を調査し、歩行立脚期に膝関節に及ぼすメカニズムを明らかにする事で、coxitis kneeへの対策とその予防的アプローチを検討していく必要がある。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C3O1098-C3O1098, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573819008
  • NII論文ID
    130004582210
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c3o1098.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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