前十字靱帯再建術後における歩行時踵荷重量の経時的変化

  • 小口 敦
    小山整形外科内科病院 リハビリテーション科
  • 倉田 勉
    小山整形外科内科病院 リハビリテーション科
  • 本所 泰子
    小山整形外科内科病院 リハビリテーション科
  • 松本 徹
    小山整形外科内科病院 リハビリテーション科
  • 矢内 宏二
    小山整形外科内科病院 リハビリテーション科
  • 鮫島 康仁
    小山整形外科内科病院 整形外科
  • 小黒 賢二
    小山整形外科内科病院 整形外科

説明

【目的】<BR> 前十字靱帯(以下ACL)再建術後リハビリテーションは、再建靱帯が成熟するまで一定期間要するため保護的に行う必要がある。歩行立脚初期では、脛骨前方引き出し力が生じていると報告されており、歩行は修復過程にある再建靱帯へストレスを与えている可能性が考えられる。また、過度な膝伸展も再建靱帯へストレスを与える可能性があり、可動域制限の対策をとることがあるが、術後装具の使用については一定の見解を得られていない。当院では術後、硬性装具による伸展制限を段階的に減らしながら3ヶ月間行っている。本研究の目的は、伸展制限下での歩行足底圧を分析し、その経時的変化を追うことに加え、術後12週時の脛骨前方移動量(以下ATT)を計測することである。<BR>【方法】<BR> 対象は2008年2月から8月にACL再建術を施行した12名(男性6名、女性6名、平均年齢31.5±10.3歳)である。術式は半腱様筋、もしくは薄筋を加えた自家腱、多重折1ルート法を行った。歩行時の足底圧測定はFscan(NITTA社製)を用いた。予備実験として下肢関節に既往のない健常者(男性10名、女性10名)の右膝に30°の伸展制限装具を装着し、歩行時の足底圧測定を行った。ACL術後患者の測定時期は術後2週(全荷重)、4週(歩容安定)、12週時(装具なし)に行った。装具の伸展角度は、術後2週時30°、4週時20°、12週時は装具なしとした。得られた足底圧をACL術後患者、健常者ともに前足部、中足部、踵部の3つに分け、前足部、後足部の各peak値を体重で除し (以下体重比)、それぞれ安定した3歩分の平均値を算出した。術後12週時にはKneelax(Index社製)を用い、患健側それぞれ132N負荷時のATTを測定し、患健差を算出した。健常者の左右比較、各測定時期の患健比較は対応のないt検定を用い、各測定時期間の検討には反復測定分散分析を行ったのち多重比較検定を行った。有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】<BR> 当院作成のACL術後リハビリテーション計画表をもとに治療、検査内容について説明を術前に行い、その上で測定時期毎に再度、検査の目的を説明し同意のもと行った。また健常者に対しては研究目的を説明の上、同意を得てから測定を行った。<BR>【結果】<BR> 健常者の結果から、右前足部(装具装着側)1.12±0.20kg/kg、左前足部1.16±0.21kg/kg、右踵部0.70±0.15kg/kg、左踵部0.94±0.21kg/kgであった。前足部の体重比は有意差を認めず、踵部では右(装具装着側)が左に対し有意に低値であり、装具装着側の踵荷重は少なかった。ACL患者は、前足部で2週時の健側0.93±0.15kg/kg、患側1.08±0.13kg/kg、4週時1.03±0.14 kg/kg、1.09±0.15 kg/kg、12週時1.01±0.17 kg/kg、1.09±0.16 kg/kgであった。踵部は、2週時健側0.84±0.13 kg/kg、患側0.38±0.16 kg/kg、4週時0.87±0.19 kg/kg、0.54±0.15 kg/kg、12週時0.89±0.17 kg/kg、0.75±0.19 kg/kgであった。前足部の患健比較は、2週時のみで健側に対し患側は有意に高値であった。踵部では全ての時期で、患側は健側に対し有意に低値であった。時期間比較では、健側の前足部、踵部ともに有意差はなく、患側の踵部では2週時に比べ4、12週で有意に高く、また4週時に比べ12週時は有意に高値であった。ATT患健差は1.20±1.64mmであり、3mm以上の症例は2名であった。なお、術後12週時において5°以上の伸展可動域制限を残した症例はおらず、術後4ヶ月までに可動域訓練を必要とせず全例完全伸展を獲得していた。<BR>【考察】<BR>健常者における伸展制限歩行は踵荷重量を減少させることが明らかであった。ACL術後患者でも同様の結果となるが、患側は健常者の伸展制限側の踵荷重量より少ない傾向であり、歩行立脚初期の前方引き出し力を回避するための特異的な反応と推察する。加えて、装具なし歩行でもACL術後患者は、患側の踵荷重量が健側より少なく、術後12週時点においても見た目上の歩容では分からない、再建ACLに対する保護的な歩行様式をうかがえた。当院で行う術後早期の装具による伸展制限リハは角度のみでなく、踵荷重量も合わせた制限となり再建ACLの修復を阻害しない方法であると考えられる。このようなリハの工夫は伸展制限による屈曲拘縮や重大な筋力低下等を残さなければ、ACL再建術による安定性をさらに高めるものと考える。なお当院の術後12週時の伸展筋力患健比は80%(N=180)を維持しており、伸展制限リハによる弊害は制御可能であると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回の検討結果は術後歩容の回復経過を追うだけでなく、ACL術後、装具使用による長所を短期成績ながら表せたと考えている。今後はATT3mm以上であった患者の経過をより詳細に分析することで、歩容改善等の介入方法によってリスクコントロールが可能となるか検討すべきと考えている。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C3O1100-C3O1100, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573828224
  • NII論文ID
    130004582212
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c3o1100.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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