スパイナルマウスを用いた立位姿勢および立位前屈姿勢の評価
説明
【目的】<BR> 脊柱のアライメントを簡便かつ定量的に評価するために,近年,脊柱計測分析器Spinal Mouseを用いた報告がある.我々も第44回の本学術大会において腰痛疾患例の脊柱アライメントの特徴について報告した.しかし,その比較となる健常データは少なく,青年期のデータに偏るなど結果も明確ではない.<BR> そこで本研究の最終目的は,比較データとなり得る各年代別の健常データの構築である.今回は,特に年齢との関係や男女比較に着目して検討した.<BR><BR>【方法・説明と同意】<BR> 対象は,骨関節疾患のない健常成人60名とした.男性30名(22~52歳,平均年齢32.1±8.7歳),女性30名(22~62歳,平均年齢34.9±11.3歳)とし,全対象者には,本研究の趣旨を説明し同意を得て行った.<BR> 脊柱計測分析器Spinal Mouse(Index社製)を用い,立位姿勢(普段立っている安楽立位姿勢)および立位前屈姿勢(体幹の最大前屈位)における,第7頚椎から第3仙骨までの脊柱傍線上を計測する.計測データから矢状面の胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角を算出した.胸椎と腰椎の彎曲は,後彎を正,前彎を負とし,仙骨傾斜角は,前傾を正,後傾を負とした. 胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角と年齢との相関関係および胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角の男女比較を統計学的に検討した.尚,有意水準は5%とした.<BR><BR>【結果】<BR><胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角と年齢との相関関係><BR> 胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角とも年齢との有意な相関は認められなかった.<BR><胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角の男女比較><BR> 立位姿勢の結果:胸椎後彎角は,男性47.1±5.9度,女性44.0±10.1度で有意な差がなかった.腰椎前彎角は,男性-20.9±8.4度,女性-27.0±8.8度で,有意に女性の方が大きかった.仙骨傾斜角は,男性8.7±5.8度,女性14.5±6.2度で,有意に女性の方が大きかった.<BR> 立位前屈姿勢の結果:胸椎後彎角は,男性62.1±11.9度,女性74.4±13.1度で有意に女性の方が大きかった.腰椎前彎角は,男性38.8±10.2度,女性30.6±8.8度で,有意に男性の方が大きかった.仙骨傾斜角は,男性67.2±11.9度,女性59.3±9.7度で,有意に男性の方が大きかった.<BR><BR>【考察】<BR> 胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角とも年齢との有意な相関は認められなかった.しかし,仙骨傾斜角においては20~30歳代においてばらついていたが,40歳代以降では年齢との弱い相関がみられた.高齢者になるにつれて姿勢は変化すると言われている.骨盤が後傾し腰椎が後彎するとそれに伴い仙骨傾斜角が減少してくる.また胸椎後彎角と腰椎前彎角および仙骨傾斜角は相関がないが,腰椎前彎角と仙骨傾斜角は相関があると言われている.以上のことから,腰椎前彎角および仙骨傾斜角は,年齢に伴い変化していくものと予想したが,統計学的な優位な相関はなかった.このことは,対象者が現役で仕事を行っている60歳代以下の方々だった為に腰椎や仙骨に影響するような姿勢変化が無かったことによると考える.<BR> 立位姿勢および立位前屈姿勢における胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角の角度は,城らや白田らの報告とほぼ同様であった.立位姿勢において腰椎前彎角と仙骨傾斜角の男女間で有意な差があった.その理由は,男性の方が女性より効率的に腹部筋を用いることができるために骨盤のコントロールが可能となり,腰椎の前彎が小さく,それに伴い仙骨傾斜角が小さくなったと考える.立位前屈姿勢において胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角の男女間で有意な差があった.その理由は,男性が腰椎優位に,女性が胸椎優位に体幹を屈曲した結果と推察される.上述したように男性の方が,腹部筋を効率的に用いるために腰椎の後彎が強くなり,女性は腰椎後彎の代償として胸椎後彎が大きくなったと考える.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 姿勢・動作分析は,理学療法評価において大変重要な位置付けとなっている.その中で脊柱の矢状面での評価方法は,従来X線や背面モアレ画像をカメラに介して行っていたが,被爆や時間を要するなどの問題があり臨床上簡便な方法ではなかった.近年スパイナルマウスの普及により臨床上で簡便かつ定量的に評価が可能となった.しかし,日本人の健常者データは未だ少なく,年代を追った幅広いデータが必要となっている.本研究では,健常者のデータを蓄積しながら,年代別の脊柱アライメントを把握し,頸部痛や腰痛患者の脊柱アライメントとの比較を考えている.その意味では,理学療法分野において意義のなるものと考えている.<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR>
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2009 (0), C3O2117-C3O2117, 2010
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205573863808
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- NII論文ID
- 130004582265
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可