ラット骨格筋の筋内膜コラーゲン線維網の形態に対する伸張の影響

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抄録

【はじめに、目的】 骨格筋の抗張力はアクチン-ミオシン間のクロスブリッジによるもの,筋線維固有蛋白質であるコネクチンによるもの,筋膜によるものの3つがあげられる。筋膜では特に筋内膜コラーゲン線維網が筋の張力に関与していると報告されている。しかし,正常な筋において,筋の伸張に伴う筋内膜コラーゲン線維網の形態変化の報告は少なく,特に筋の抗張力が最大に達するまでの間で伸張距離と筋内膜コラーゲン線維の走行変化についての報告しているものは見られない。また,関節固定などにより筋性拘縮を起こした筋では,コラーゲン組織の増加などが述べられているが,伸張に伴う筋内膜コラーゲン線維網の形態変化に関する報告は少ない。よって本研究の目的は,正常な筋を連続的に抗張力が最大限に達するまで伸張した時のコラーゲン線維の状況をみることと,筋性拘縮を起こした筋を抗張力が最大限に達するまで伸張した時点のコラーゲン線維の状況をみることである。【方法】 実験動物には9週齢の雄Wister系ラット20匹を用いた。全てのラットはゲージ内で餌,水ともに自由に摂取できるようにして4週間飼育した。4週間の飼育後,全てのラットヒラメ筋に対して伸張試験を行った。伸張試験時のヒラメ筋伸張距離より,伸張を行わない短縮位群,10mm伸張を行う10mm伸張位群,20mm伸張を行う20mm伸張位群,最大張力発生後に張力曲線が下降を始める点まで伸張を行った最大伸張群,飼育期間中に4週間関節固定を行った後に最大伸張群と同様の伸張を行った固定最大伸張群の5群に分けた。全ての群は伸張試験時のヒラメ筋伸張距離を保って組織固定を行い,走査型電子顕微鏡による形態観察の試料とした。各群の試料は倍率1万倍にて写真の上下方向が筋線維長軸に一致するように筋内膜コラーゲン線維網の写真を撮影した。撮影した写真より写真の上下方向と筋内膜コラーゲン線維がなす角度を測定し,コラーゲン角度とした。コラーゲン角度は発生頻度により10°毎のヒストグラムとして表した。コラーゲン角度は筋内膜コラーゲン線維が筋線維長軸と一致する場合が0°であり,コラーゲン線維が筋線維長軸に対して横走する場合が90°と表現される。【倫理的配慮、説明と同意】 今回の実験は,県立広島大学保健福祉学部付属動物実験施設を使用し,県立広島大学研究倫理委員会の承諾(承認番号:第M11-002号)を受けて行った。【結果】 短縮位群のコラーゲン角度は平均値43±25°,発生頻度は大きな変化がなかった。10mm伸張群のコラーゲン角度は平均値50±19°,発生頻度は60°付近が最も多かった。20mm伸張群のコラーゲン角度は平均値45±22°,発生頻度は50°付近が最も多かった。最大伸張群のコラーゲン角度は平均値40±24°,発生頻度は30°付近が最も多かった。固定最大伸張群のコラーゲン角度は平均値61±18°であり,発生頻度は80°付近が最も多かった。【考察】 正常な筋の筋内膜コラーゲン線維網では,筋短縮位で様々な方向へ走行するのに対し,伸張位では筋線維長軸に対して縦走すると報告されている。本研究では,正常な筋において抗張力が最大となるまで連続的に伸張した際,伸張距離の増加に伴い筋線維長軸方向に縦走するコラーゲン線維が増加していき,筋が最大の抗張力を発揮するとき,コラーゲン線維が筋線維長軸に対して最も平行に近くなることが確認された。また,筋性拘縮を起こした筋の筋内膜コラーゲン線維網について,ラット足関節を4週間固定した先行研究では,正常な筋と比較して,筋線維長軸に対してコラーゲン線維が横走するように変化することが報告されている。本研究では,筋性拘縮を起こした筋を抗張力が最大となるまで伸張した際でも,筋内膜コラーゲン線維の走行は筋線維長軸に対して横走している線維が多く見られた。このことから,筋性拘縮を起こした筋においては伸張を最大限まで加えても,筋内膜コラーゲン線維の走行は筋が伸張する方向に沿って形態変化を起こさない可能性を示唆した。【理学療法学研究としての意義】 筋性拘縮は理学療法の代表的な治療対象である。本研究では,筋性拘縮に対して加える筋伸張運動が,コラーゲン線維網の形態変化を生じ,一方,筋性拘縮の筋では,コラーゲン線維網の形態変化が少ないことが示唆された。日頃よく行う筋伸張運動が筋の病理学的変化に与える影響を認識した上で,治療行為を行うことは,理学療法士にとって有用な基礎的情報となる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab1357-Ab1357, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573866368
  • NII論文ID
    130004692602
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab1357.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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