姿勢観察の方法についての検討(第2報)

DOI
  • 小西 尚之
    社会医療法人 協和会 淀川介護老人保健施設ハートフル
  • 古山 明宏
    社会医療法人 協和会 淀川介護老人保健施設ハートフル
  • 松本 伊代
    社会医療法人 協和会 淀川介護老人保健施設ハートフル
  • 中谷 裕美
    社会医療法人 協和会 淀川介護老人保健施設ハートフル
  • 猿渡 智恵
    社会医療法人 協和会 淀川介護老人保健施設ハートフル
  • 増門 千恵
    社会医療法人 協和会 淀川介護老人保健施設ハートフル
  • 小澤 拓也
    社会医療法人 協和会 法人本部

抄録

【目的】動作観察や姿勢観察による評価は理学療法を展開する上で重要であり,臨床においては視診や触診による観察が日常的である.しかしこれらは主観的要素に左右されることが多く,観察能力の習熟度にはバラツキが大きいという欠点がある.我々は先行研究において,段階的に教示を与えることで姿勢描写が次第に習熟することを報告した.今回は姿勢観察の学習過程において,描写の習熟と言語表現の習熟との関連性について検討したので報告する.<BR><BR>【方法】対象者は当法人リハビリテーション科に在籍する新人理学療法士7名(男性2名、女性5名),平均年齢25±2.8歳とした.<BR>方法は座位姿勢の観察を視診及び触診にて行い,矢状面及び前額面の姿勢を描写させると共に,言語記述をさせた.頻度は1週間に1度,以下に示す段階的に設定した異なる教示課題を計4回実施した.各課題施行後のフィードバックは描写のみに与え,言語記述には与えなかった.<BR>1回目は特別な指示を与えず,自由に描く.2回目は体を体節(頭,胸郭,骨盤,肩甲骨,上腕部,前腕部,手部,大腿部,下腿部,足部)に分け,相対的な位置関係を考慮し描く.3回目は身体重心,支持基底面,圧中心の位置を考慮し描く.4回目は上記を踏まえ,全体の位置関係を考慮し描くという4課題とした.<BR><BR>【説明と同意】当法人の教育プログラムの一環として実施し,対象者には研究の趣旨を十分に説明し,データ使用に関する同意を得た.<BR><BR>【結果】1回目:[描写]ほとんどの対象者が,骨盤,頭部以外は体節に分けて描写できていなかった.矢状面に比べ前額面では,骨盤傾斜,脊柱の彎曲についての個人差が大きかった.[言語記述]頸部,骨盤,股関節,膝関節の記述は対象者に共通していたが,その他の記述は対象者によって個人差が大きかった.<BR>2回目:[描写]体節が描写されてきたが,体節の配列に整合性がなかった.[言語記述]体幹,肩甲骨,上肢,足部の記述が追記された.<BR>3回目:[描写]胸郭と頭部,骨盤と胸郭など,隣り合う体節間の位置関係は描写されてきたが,全体としては体節の配列に整合性に欠けるものが多かった.[言語記述]圧中心位置や上半身重心の記述が追記されていた.<BR>4回目:[描写]体節の配列が整い,前額面における描写の個人差が小さくなった.[言語記述]「膝蓋骨に対し足部は外側」という表現や,左右差が追記されていた.<BR>1回目と2回目の課題において,観察できていない部位は線で適当につなぐ傾向にあったが,3回目,4回目では体節で描写されるようになった.<BR><BR>【考察】姿勢・動作を直接の介入対象とする理学療法士にとって,対象となるヒトの姿勢,体節の位置関係や関節の運動方向の把握,力学的知識の整理は重要な能力と考えられる.描写課題初期では体節の描写や配列に個人差が大きく現れたが,段階的に課題を行うにつれ,体節の配列が整い,個人差が小さくなった.これに伴い,言語記述が増加し,明確化されてきた.学習における二重符号化理論(Mayer.1994)によれば、視覚イメージによる表象と言語による表象がワーキングメモリ内で統合されることで、学習が促進されるとしている。また視覚イメージと言語情報を同時に提示することが、学習に大きな効果があるとしている。今回の結果から,段階的に視覚イメージに教示課題を行うことで描写が習熟し,また同時に言語記述も行わせることにより,言語表現も習熟したものと考えられた.姿勢観察の初期指導においては言語表現のみの指導ではなく,身体を体節に分けた上で,力学的に捉えられるような方法で視覚イメージを中心に学習することが必要であると考えられた.しかし今回の方法では体節の回旋運動や身体重心線に対する各体節の配列についての観察は不十分であったため,今後の研究課題となった.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】歴史的に理学療法は経験的な知見の積み重ねであり,姿勢観察等の評価方法についても主観的な部分が多く,客観的な技術として確立させることは容易ではない.しかし,近年に見られる理学療法士の養成数の急増やEBPTの必要性に鑑み,理学療法の質の担保が急務と考えられる.ことに理学療法技術の均質化をもって治療レベルの質を保つことが重要な状況においては,本研究は重要な示唆を与えるものと考えられる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), G3O1225-G3O1225, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573898496
  • NII論文ID
    130004582953
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.g3o1225.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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