上肢機能とごみ分別動作の検討

DOI
  • 佐藤 理恵
    リハビリテーションセンター熊本回生会病院リハビリテーション部

書誌事項

タイトル別名
  • ガラス瓶のキャップ除去動作に着目して

抄録

【目的】<BR>環境問題が深刻化する中で、ごみ分別に関しては各地域で細かく分類されている。特に、ペットボトルや空き瓶に関しては、ラベルを外し、キャップを除去するように指定されている地域が多い。今回、ごみ分別動作の中でも、特に困難とされるガラス瓶のキャップ除去動作に着目し、上肢機能との関係について検討したので報告する。<BR>【方法】<BR>健常者の女性51名(年齢48.88±17.63、右利き48名、左利き3名)を対象に、デジタル式握力計とPinch Meter(酒井医療株式会社製SPR-641)を使用し、両側握力を座位、体側にて、両側ピンチ力(鍵摘み、第1-2指腹摘み、第1-3指腹摘み)を座位、肘90度屈曲位にて測定した。また調味料などに用いられるガラス瓶(容量:360ml、直径:60mm、高さ:200mm)にキャップ(リサイクルを配慮した日本クラウンコルク株式会社製樹脂ヒンジキャップ)を取り付け、1.道具を使わずに外す(以下、方法1)、2.栓抜きタイプの分別道具『プラキャップを取りマウス』を用いて外す(以下、方法2)、3.はさみタイプの分別道具『分別ハサミ』(分別道具は共に長谷川刃物株式会社製)を用いて外す(以下、方法3)に分け、座位にて実施し除去に要した時間を測定した。また独自に作成したアンケートにて、1.簡単だと感じた方法、2.力を要した方法、3.手に痛みを感じた方法と、日常でのキャップ除去の状況について調査した。得られたデータはアンケート調査をもとに種別し、それぞれの握力、ピンチ力、キャップ除去に要した時間を比較した。(有意水準5%)<BR>【説明と同意】<BR>今回の研究にあたり、対象者には書面及び口頭にて本研究の目的と内容を説明し、同意を得た上で調査を行った。<BR>【結果】<BR>握力、ピンチ力、キャップ除去に要した時間は65歳未満群(41名、年齢42.63±13.26)と65歳以上群(10名、年齢74.5±6.15)間に有意差はみられなかった。日常で分別道具を使用している人(以下、使用群)のうち、栓抜きタイプ使用群5名と使用していない人(以下、非使用群)46名の、方法2に要した時間に有意差はみられなかった。また、はさみタイプ使用群3名と非使用群48名の、方法3に要した時間に有意差はみられなかった。キャップ除去方法別に要した時間には有意差がみられた(方法1:6.96±7.35秒、方法2:4.16±2.02秒、方法3:12.27±5.95秒)。アンケート調査から、簡単だと感じた除去方法は方法1:18%、方法2:60%、方法3:22%、力を要した除去方法は方法1:84%、方法2:4%、方法3:12%、手に痛みを感じた除去方法は方法1:74%、方法2:2%、方法3:10%、なし14%だった。<BR>【考察】<BR>今回の測定結果からは年齢による握力、ピンチ力、キャップ除去に要した時間には有意差はなく、日常使用群と非使用群にも有意差はみられなかった。キャップ除去方法別に要した時間では有意差がみられ、方法3が一番時間を要する結果となったが、方法3は、はさみでキャップに4~5箇所の切り込みを入れるという複雑な動作が入ることが影響していると考えられる。アンケート調査では、60%の人が方法2での除去方法が外しやすいと答えており、方法1は力を要すると感じた人が84%、手に痛みを感じた人が74%であり困難さが伺える結果となった。これらの結果から、道具を使用することは、手の痛みや除去の困難さを感じることは少なく、経験の有無も影響しないため誰でも簡単に使用できるといえる。しかし全体の84%の人が日常の中で分別道具を使用しておらず、その内98%の人が除去の際に怪我や痛みを感じる経験があるということであった。また全体の53%の人が道具の存在すら知らないという結果だった。私達の住む熊本市では、2003年の調査でガラス瓶のキャップの付着率が40%と悪く、『回収ビン引取拒否問題』が発生した。その後市の啓発活動にて2009年では20%まで改善が見られている。全国的にみると、各家庭へ分別道具の支給やコミュニティーセンターに設置されている地域もあり、今回の研究が分別道具の啓発に繋がり家庭内分別が進むことで処理コストや環境にかかる負担が軽減できればと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>今回の調査は健常者の女性を対象に行ったが、実際に何らかの疾患を持った方になるとより困難を要すると思われる。リハビリテーションを提供する側として、様々な方々に日常生活を簡便にする道具の情報発信の必要性と、更に使いやすくする工夫を忘れてはならない。<BR><BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), E4P3211-E4P3211, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573943168
  • NII論文ID
    130004582902
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.e4p3211.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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