歩行時足底圧と活動量から算出した糖尿病患者の積算足底圧についての検討

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抄録

【はじめに、目的】 糖尿病(DM)患者の足部潰瘍は下肢切断に移行するリスクが高いため[Apelqvist et al, J. Intern. Med.1993]潰瘍形成前段階で予防的介入をすることが望ましい。DM患者の潰瘍形成要因の1つに「局所的な足底圧の上昇」があり、胼胝形成部位では特に圧が高いことが報告されている[Pataky et al. Diabetes Metab.2002]。しかし足底圧単独では潰瘍形成を予測し得ないため [Lavery et al. Diabetes care. 2003]足底圧の影響を検討する際には、その繰り返しである活動量の考慮が課題となることも指摘されている。そこで本研究の目的は、胼胝のあるDM患者の足底圧と活動量から積算圧を算出して対照群と比較しその特徴を明らかにすることとした。【方法】 対象は10m以上の歩行が可能で本研究に対し参加の同意が得られた名古屋共立病院の外来患者19名38肢(64.4±11.4歳;男性8名、女性11名)とした。除外基準は足底に潰瘍のある者・義足使用者・血管障害のある者とし、理学検査として触覚検査、振動覚検査、アキレス腱反射、後脛骨動脈及び足背動脈の触診を行い、適格者を抽出した。DM患者はDM胼胝群とDM群に分類し、DMも胼胝もない者を対照群とした。足底圧の計測は足底圧分布測定システム(F-SCAN:ニッタ株式会社製)を用い、裸足および靴着用の2条件を設定し2回ずつ測定した。計測結果は専用解析ソフトを用いて解析し、前足部と足底全体における1歩あたりの足底圧の最大値(最大圧)及び積分値(時間圧積分値)を1肢ごとに算出した。また、時間圧積分値と1日の平均歩数の1/2(ストライド数)の積を1日あたりの積分値(積算圧)として算出した。なお、歩数の計測は加速度計内蔵型歩数計(ライフコーダ:suzuken社製)を用い、7日間の歩数を計測した。計測結果はライフライザー05コーチを用いて解析し、1日の平均歩数を算出した。統計解析は、群内における裸足・靴着用時の足底圧の比較を対応のあるt検定、群間の比較を一元配置分散分析にて行い、有意水準をp<0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の目的と内容の説明を行い書面にて同意を得た。本研究は名古屋大学医学系研究科生命倫理委員会の承認(承認番号:11-501)及び名古屋共立病院生命倫理委員会の承認を受けて行った。【結果】 積算圧について、足底全体の裸足積算圧はDM胼胝群2052 kg/cm2/day、DM群1791 kg/cm2/day、対照群1351 kg/cm2/dayであり、DM胼胝群は対照群に比較して有意に高かった(p=0.03)。靴着用積算圧は前足部・足底全体のいずれも群間に有意差を認めなかった。群内の比較では、全ての群で前足部・足底全体のいずれも裸足積算圧は靴着用積算圧よりも有意に高かった。足底圧について、群間に有意差を認める項目はなかったが足底全体の靴着用最大圧以外の項目ではDM胼胝群が最も高い値となった。活動量は、DM胼胝群7349 step/day、DM群8226 step/day、対照群5871 step/dayであり群間に有意差を認めなかった。【考察】 DM胼胝群は対照群に比較して裸足積算圧が有意に高かった。時間圧積分値及び歩数においてDM胼胝群で高い傾向がみられたが単独の比較では有意差は認められなかった。この結果は、活動量や靴の着用という環境を複合的に捉えた積算圧の概念を用いることで糖尿病患者の足底に加わる負荷の高さを検出した所見である。足底圧と活動量において群間の差がみられなかったことについて、DM性神経障害患者は健常者に比較して最大圧が高いことが知られているが、本研究に参加したDM患者で神経障害を有するのはDM胼胝群の3名6肢と少数であったことと、この3名が減圧目的の治療用靴を使用していたことから裸足・靴着用の2条件とも群間に差が出なかったと推測される。活動量について、全対象者は活動制限がなく同程度の活動レベルであったといえる。また、有意差はないもののDMの2群は運動療法実施により活動量が多くなっていたと考えられる。今回の結果において積算圧は靴の着用により減少することが確認された。これはDM性足潰瘍の予防や治療として靴型装具の使用が推奨されることを支持する所見であると同時に、対象者が靴を着用しない環境で長時間活動する場合には負荷軽減の効果を得られない可能性があることを示唆する所見でもあり、効果的な予防策を講じるためには、対象者の生活様式を配慮する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究により足底圧あるいは活動量の単独指標に留まらず、積算圧の概念を用いる意義を提言することができたと考える。足病変の発生リスクが高い対象者に理学療法を行う際は、限られた測定環境で得られた足底圧のみでなく、活動量や履物の違いによっても足底にかかる負荷が異なることも考慮し、運動指導や生活指導をする必要がある。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Da0333-Da0333, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573995264
  • NII論文ID
    130004693250
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.da0333.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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