ラット後肢のギプス固定により出現する長期の機械的痛覚過敏に対して2週間のトレッドミル運動が及ぼす影響

  • 森本 温子
    愛知医科大学医学部学際的痛みセンター 愛知医科大学医学部生理学第1講座
  • 大道 裕介
    愛知医科大学医学部学際的痛みセンター 愛知医科大学医学部解剖学講座
  • 櫻井 博紀
    愛知医科大学医学部学際的痛みセンター 浜松大学保健医療学部理学療法学科
  • 吉本 隆彦
    愛知医科大学医学部学際的痛みセンター 愛知医科大学医学部生理学第2講座
  • 大道 美香
    愛知医科大学医学部解剖学講座
  • 橋本 辰幸
    愛知医科大学医学部学際的痛みセンター
  • 佐藤 純
    愛知医科大学医学部学際的痛みセンター 名古屋大学環境医学研究所
  • 牛田 享宏
    愛知医科大学医学部学際的痛みセンター
  • 岡田 忠
    愛知医科大学医学部生理学第1講座
  • 熊澤 孝朗
    愛知医科大学医学部学際的痛みセンター

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説明

【目的】運動器由来の慢性痛は臨床現場において理学・運動療法的介入が行われることが多い。一方で、その効果について臨床像を反映したモデル動物を用いた基礎的検証は未だ不十分である。これまでに我々は2週間の片側後肢ギプス固定後、固定部後肢の発赤、浮腫、熱感に続き、固定部を超えて拡がる皮膚・筋の機械的痛覚過敏行動が長期に継続することを報告している(大道ら2005)。そこで今回は本モデルを用いて強制トレッドミル運動負荷が及ぼす影響について行動学的に検証を行った。<BR><BR>【方法】雄性SDラット(10週齢, n=18)を用い、ペントバルビタールナトリウム麻酔下(腹腔内投与:50mg/kg)で、石膏ギプスにて左後肢を足・膝・股関節屈曲位で固定した。2週間の固定期間の後、覚醒下でギプスを除去した。運動群(n=12)と非運動群(n=6)を設定し、運動群へはギプス除去後3日後から週3回の頻度で2週間のトレッドミル運動を負荷した。トレッドミル運動は小動物用電気ショック装置付きトレッドミル(Columbus instr.社製、Modular Treadmill)を用い、速度を12m/分、時間を1日30分とした。機械的痛覚テストは、固定部直下(下腿皮膚、腓腹筋部)、固定部近傍(足底皮膚)、固定部遠位(尾)に対して、ギプス固定前、ギプス除去2時間後、1日後、3日後、1週後、それ以後は1週毎に10週後まで行った。皮膚の痛覚過敏行動として刺激強度の異なるvon-Frey filaments(φ0.5mm)にて皮膚を刺激した際の引込め反応回数を測定した。足底に対しては2、6、8g、下腿皮膚に対しては20g、尾に対しては10gの刺激強度のVFFを用いた。筋の痛覚過敏行動として腓腹筋部に先端2.2mmのプローブを付けたpush-pull gaugeを手動により10g/secの速度で押し付け、後肢の引っ込め反応が出現した時点のグラム重量を記録した。非運動群と運動群の機械的痛覚閾値の差はTwo-way repeated ANOVAで検定し、post hocとして各時間経過において二標本t検定を行った。各群における機械的痛覚閾値の変化はOne-way ANOVAを行い、post hocとしてDunnett検定を用いた。<BR><BR>【説明と同意】本実験は、国際疼痛学会の倫理委員会が定めたガイドラインに準拠し(Zimmermann 1983)、愛知医科大学動物実験委員会の承認のもとに実施した。<BR><BR>【結果】非運動群では、下腿皮膚・腓腹筋部・足底の痛覚過敏行動がギプス除去後2時間後から固定側優位に出現し、10週後まで亢進を示した。尾の痛覚過敏の出現はこれらの部位から遅れ、除去後2週後から有意な亢進を示し、10週後まで持続した。一方運動群では、腓腹筋部の痛覚過敏行動が運動負荷終了後4~5週間において両側とも有意に減弱を示した。さらに尾の痛覚過敏行動の出現が非運動群と比較して3週間遅延し、運動終了後8週間に渡り有意に減弱を示した。下腿および足底皮膚の痛覚過敏行動については両群間での有意な差は認められなかった。<BR><BR>【考察】ギプス固定後の痛覚過敏行動に対して今回行ったトレッドミル運動負荷は部位によって異なる影響をもたらした。腓腹筋部の痛覚過敏行動は運動負荷終了後の一定期間に減弱を示し、一方で直上の下腿皮膚では運動効果が認められなかったことは、そのメカニズムに筋運動による局所的な疼痛抑制効果が推測された。また、ギプス除去3日後の運動開始時点では亢進を示していない尾部の痛覚過敏行動の出現が運動負荷によって遅延され、固定部位(腓腹筋部)と比較して長期に抑制されことは、今回の運動は本モデル動物の痛覚過敏行動拡大に対して予防効果をもつ可能性が示唆された。今後運動負荷の疼痛抑制メカニズムを追及するにあたり、筋への局所的な影響と慢性痛発現機序として推測される中枢神経系への影響を双方に検索する必要があると考えられた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】慢性痛、特に運動器の慢性痛の有病率は非常に高く、患者のADL・QOLに対する大きな阻害因子となっている。臨床現場において慢性の運動器痛に対して理学療法が施行されているが、その効果の基礎的検証は未だ端緒についたばかりである。今回の我々の研究では主に行動学的な面から運動療法が四肢の慢性痛に及ぼす影響について調査を行ったものである。これまでの研究から筋収縮はサイトカインや栄養因子などの内因性活性物質を筋および脊髄に誘導する事などが報告されており、今後はモデル動物における運動療法の効果を生化学的・免疫組織学的に解析することで臨床現場での病態の把握や評価、適切な運動処方に繋がると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AcOF2002-AcOF2002, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

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