選択的筋疲労条件を用いた半腱様筋機能の解明
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【目的】これまでに我々のグループは,ハムストリングを構成する半腱様筋(ST),半膜様筋(SM),大腿二頭筋(BF)の筋活動が膝関節屈曲角度によって変化することを報告した(西野, 2004. Kubota, 2009)。しかし,動的課題でハムストリングの各筋が有する機能は明らかではない。各筋の役割を検索するために,各筋の機能を欠損させて動的な運動学的解析を行うことが有効であると考える。このことから,選択的な筋疲労を誘起することによる機能的欠損実験を試みてきた。本研究の目的は,ハムストリングにおける動的機能の解明への導入として,疲労による STの機能的欠損によって静的筋出力時にハムストリングのふるまいがどのように変化するかを明らかにすることである。<BR>【方法】対象は健常成人男性とし,左下肢を測定対象とした。測定機器は等速性筋力測定機器を使用し,測定肢位は腹臥位とした。介入はSTの選択的な疲労を誘起するために,STへの神経筋電気刺激(NMES)とした。NMESは低周波治療機器を使用し,刺激肢位は腹臥位で膝関節屈曲60°とした。電気刺激は刺激周波数20Hz,刺激時間30分,刺激強度は被験者が耐えうる最大強度と規定した。実験課題は等尺性膝関節屈曲運動の最大随意収縮(MVC)課題と一定力出力課題とし,NMESによる介入の前後でランダムに実施した。MVC課題は膝関節屈曲15゜,60゜,105゜で2回ずつ実施した。一定力出力課題は膝関節屈曲105゜で実施し,膝関節屈曲105゜での介入前MVC課題で得られた最大トルクの25%,50%,75%を目標値として設定した。測定項目は膝屈曲トルクと下肢筋活動とした。筋活動の測定は表面電極を使用し,ST,SM,BFから導出した。データ解析として,MVC課題は各角度における最大膝屈曲トルクの最大値を採用し,そのときの各筋の筋電図積分値と中央周波数を算出した。一定力出力課題は目標値を出力している部分の3秒間を分析対象とし,筋電図積分値と中央周波数を算出した。統計学的解析は,最大膝屈曲トルクにおいては測定時期要因と膝関節角度要因について反複測定二元配置分散分析を実施した。交互作用が認められた場合には単純主効果の検定を行った。筋電図積分値と中央周波数は各筋の各出力強度によってそれぞれ対応のあるt検定を実施した。有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】本研究は,本学倫理委員会の承認を得た上で実施した。また,被験者にはヘルシンキ宣言に基づき,事前に研究目的や測定内容等を明記した書面を用いて十分な説明を行った。その上で,被験者より同意の得られた場合のみ測定を開始した。<BR>【結果】膝関節最大屈曲トルクは介入後にどの関節角度においても有意に低下した。そのときの筋電図積分値は膝関節15°では介入後においてST,SMが有意に低下し,膝関節105°では介入後においてSM,BFで有意に増加した。一定出力課題では,STは介入後において25%,50%の出力の際に筋電図積分値が有意に増加し,中央周波数が有意に低下した。SMは全ての出力において介入後に筋電図積分値が有意に増加し,中央周波数は50%の出力の際に有意に増加した。BFは介入前後で変化はなかった。<BR>【考察】最大トルクが介入後に低下したことから,NMESで筋疲労が生じていたことは明らかであった。また,一定出力課題のSTにおける筋電図解析の結果から,STには筋疲労が生じたことが示唆された。これまでの金子らのグループによるST機能に関する解析結果から,STの疲労によって膝関節深屈曲位で選択的なトルクの低下が予想された。しかし,今回の結果からSTの疲労により深屈曲位での低下が起こるわけではなかった。積分筋電図の結果から,膝関節伸展位では介入後にSTとSMが膝屈曲トルクに貢献することができなくなったために最大トルクが低下したと考える。一方,膝関節105°では介入後にSMとBFの筋活動量は増加していたにもかかわらず,膝屈曲トルクが減少していた。このことから,膝関節深屈曲位での膝屈曲トルクの生成にはSTが大きく貢献している可能性が考えられ,過去の報告に矛盾しない。一方,一定出力課題時にはSMは筋電図積分値が増加しているにも関わらず,中央周波数は増加した。このことは,SMでは介入後に筋伝導速度が速くなったことを示し,動員された運動単位が質的に変化した可能性が高い。STが疲労し十分な膝屈曲トルクの生成ができなかったためにSMがその機能を補うように活動した可能性がある。これらのことから,ハムストリング内側のSTとSMにおいてはお互いの機能を補完するように機能的に連関する機構がある可能性があり,今後の研究課題である。<BR>【理学療法学研究としての意義】STが静的課題下で果たす機能的役割を明らかにすることは,膝関節障害を有する症例の評価・治療の根拠となる可能性がある。
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2010 (0), AbPI2121-AbPI2121, 2011
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205574014208
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- NII Article ID
- 130005016661
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed