骨折後の外固定が関節拘縮と筋組織の変性に及ぼす影響

説明

【目的】関節を不動化することで骨格筋の廃用性萎縮が進行することはすでに知られているところであり、その予防や回復を目的とした様々な手法(ストレッチングやROMエクササイズ、物理療法など)の効果についても報告されている。しかし、実験動物を材料とした多くの研究においては、健常な関節部を不動化することで人工的に作製した関節拘縮を対象としており、外傷性の運動器疾患(特に骨折)がその変性に与える影響については充分に解明されていない。そこで今回は、ラットの後肢に対し外科的処置により作製した骨折が、外固定による骨格筋の廃用性萎縮の進行と関節拘縮の発生に及ぼす影響について検討した。<BR>【方法】10週齢のWistar系雄ラット(6匹)の右後肢(脛骨骨幹部)に外科的に骨折の処置を施した後、皮膚の縫合と徒手整復を行い、硬性固定材料(レナサーム)を用いて、膝関節軽度屈曲位、足関節最大底屈位で大腿遠位部から足部までの背側面に外固定を施した。2週間の固定期間終了後、両側のヒラメ筋と長趾伸筋を採取し、in vitroにて強縮張力と2分間の疲労指数を測定した。その後で組織を凍結処理し、組織化学分析と生化学分析に使用する標本を作製した。組織化学標本にはコハク酸脱水素酵素染色とアルカリ前処理(pH10.4)ATPase染色を実施して、筋線維タイプ別横断面積を求めた。また、同様にヘマトキシリン・エオジン染色も実施し、変性に伴う筋細胞の変化についても観察を行った。一方、生化学標本にはドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法を用いて、ミオシン重鎖(MHC)アイソフォーム構成比を分析した。尚、骨折処置前と固定終了時には足関節の関節可動域を測定し、関節拘縮の程度を評価した。<BR>【説明と同意】本実験は畿央大学動物実験倫理委員会の承認を得て、畿央大学動物実験管理規定に従い行った(承認番号21-7-I-210824)。<BR>【結果】固定終了時の右足関節の関節可動域は、骨折処置前に比べて約70%減少していた。患側肢の強縮張力は健側肢に対してヒラメ筋で約50%、長趾伸筋で約15%の低下が見られたが、2分間の疲労指数についてはヒラメ筋で約45%低下していたのに対し、長趾伸筋では約85%上昇する結果となった。また、筋線維タイプ別横断面積については患側肢の両筋ともに健側肢よりも低値を示していたが、ヒラメ筋ではSO線維とFOG線維の両方で有意に減少していたのに対し、長趾伸筋ではFG線維とFOG線維でのみ有意に減少する結果となった。一方、ミオシン重鎖アイソフォーム構成比については、患側肢のヒラメ筋で健側肢に対してMHC1が減少していたが、長趾伸筋では有意な変化は認められなかった。尚、患側肢の筋細胞では大小不同や核の円形化と濃染、筋線維の小径化と間質結合組織の増加、貪食細胞の浸潤と細胞壊死像などの病理的所見が特にヒラメ筋で顕著に確認できた。<BR>【考察】岡本らによると健常な足関節を底屈位で2週間不動化すると約34%の可動域制限が見られたとされているが、本研究ではその約2倍の関節可動域の減少が認められた。このことから、実際に発生した骨折がその周辺部の骨格筋での炎症反応を引き起こし、その後の固定による不動化の影響も合さって筋萎縮ならびに関節拘縮をより進行させたものと考えられる。また、足関節を最大底屈位としたことで、伸張位での固定となった長趾伸筋の方が弛緩位のヒラメ筋よりも筋萎縮の程度が小さくなったが、このことは固定時の肢位を考慮することにより筋萎縮ならびに関節拘縮の程度を抑制することができる可能性を示唆している。<BR>【理学療法学研究としての意義】今回、対象とした骨格筋の廃用性萎縮や関節拘縮は、単に関節を不動化しただけのものではなく、実際に発生した骨折部が周囲の軟部組織に与える影響も含めたものであることから、骨折後の外固定時を想定した筋萎縮や関節拘縮の研究材料としてはより臨床的であると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P2058-A4P2058, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205574038016
  • NII論文ID
    130004581868
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p2058.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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