安定期慢性閉塞性肺疾患患者における身体活動持続時間評価の妥当性の検討

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抄録

【はじめに、目的】 慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の日常の身体活動量は生命予後を予測する強力な因子であり,その詳細を客観的に評価することが求められている.先行研究では,身体活動量の評価指標として,一日当たりの身体活動の累積時間が多く採用されており,COPD患者の歩行活動の累積時間は同年代の健常者と比べて低下しており,呼吸機能やQuality of Life(QOL)と関連することが示されている.しかし一方で,一回当たりの身体活動の持続時間に着目した報告は極めて少ないのが現状である.とくに閉塞性換気障害を有する患者では動的肺過膨張によって活動の持続時間が制限されることが考えられる.我々は先行研究において,慢性呼吸器疾患患者の最大持続時間(1日における身体活動持続時間の最大値)が同年代の健常者と比較して有意に低値であることを報告したが,最大持続時間が累積時間と同様に慢性呼吸器疾患患者の呼吸機能やQOLと関連するか否かは明らかではない.また,先行報告ではCOPD患者だけでなく拘束性肺疾患患者も含まれていたため,呼吸機能との関連を検討するうえでは疾患を統一する必要がある.そこで本研究の目的は,COPD患者の最大持続時間と呼吸機能およびQOLとの関連を検討し,最大持続時間の身体活動量指標としての妥当性を確認することとした.【方法】 対象は呼吸器専門診療所に外来通院している安定期COPD患者18例(COPD群:男性16例,78.1±5.1歳)と同年代の健常者18名(健常群:男性13名,75.9±4.4歳)とした.調査項目は,背景因子(年齢,性別,体格,合併症),呼吸機能{%肺活量,%努力性肺活量(%FVC),%一秒量(%FEV1),一秒率},健康関連QOL(CRQ)および身体活動量とした.身体活動量は加速度計付歩数計(ライフコーダEX)を1週間,常に腰部に装着させ,測定した.また身体活動量の各指標の解析方法については,身体活動の累積時間は一日のなかで認められたすべての身体活動の時間を合計した値を採用した.最大持続時間は一日における身体活動のなかで活動の持続時間が最長であった値を採用した.さらに,累積時間と最大持続時間の代表値には1週間の測定値のうち,装着日と回収日を除いた6日間の平均値を用いた.統計学的解析は,COPD群と健常群における背景因子と身体活動量の比較には,χ2検定およびMann-WhitneyのU検定を用いた.また,COPD群の最大持続時間と呼吸機能および健康関連QOLとの関連の検証には,Spearmanの順位相関係数を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を受けており,被験者には本研究の内容を口頭および書面にて十分に説明し,同意を得た上で実施した.【結果】 COPD群と健常群における身体活動量の比較では,COPD群の累積時間は健常群と比較して有意な差を認めなかったが(P=0.18),COPD群の最大持続時間では健常群と比較して有意に低値を示した(P<0.05).さらに,COPD群の最大持続時間と呼吸機能およびCRQとの関連では,最大持続時間と%FVC,%FEV1とに有意な相関を認め(それぞれP<0.05,r=0.54,0.58),最大持続時間とCRQのTotalならびに下位項目であるDyspnea,Fatigue,Emotional functionとの間においても有意な相関を認めた(それぞれP<0.05,r=0.53,0.66,0.56,0.57).【考察】 COPD群と健常群での身体活動量の比較において,累積時間では二群間に有意差を認めず,最大持続時間にのみ有意差を認めたことから,累積時間ではCOPD患者の身体活動の特性を十分に捉えられないことが考えられ,とくに本研究の対象のような徒歩での外来通院が可能なCOPD患者の活動性の低下を検出するには累積時間ではなく最大持続時間を評価する必要性が示された.また,COPD群の最大持続時間が%FVC,%FEV1と有意な相関を認めたことから,最大持続時間はCOPDの病態である気道閉塞の程度を反映する妥当な身体活動量指標であると考えられた.加えて,先行研究においてはCOPD患者のFEV1は動的肺過膨張の程度と関連するとされており,最大持続時間はFEV1と相関を認めたことから,最大持続時間の低下には動的肺過膨張が影響していることが推察された.また,最大持続時間がCRQの各項目と相関を認めたことから,最大持続時間はCOPD患者の呼吸機能低下に伴う呼吸困難や疲労感といった自覚症状と関連する指標であることが確認された.さらに,COPD患者の身体活動量はself-efficacyなどの心理面と関連するとされており,最大持続時間がCRQのDyspneaやFatigueだけでなく,Emotional functionとも相関を認めたことからも,身体活動量指標としての妥当性が示された.【理学療法学研究としての意義】 COPD患者の身体活動量増大にむけた介入を行う上では,最大持続時間を評価し,持続的な活動を促すことがQOLの向上にもつながる可能性が示された.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Da0308-Da0308, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205574060288
  • NII論文ID
    130004693225
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.da0308.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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