入谷式足底版における長パッドが歩行時大腿部筋活動に与える影響について

説明

【目的】<BR>足部は唯一地面に接している部位であり、足部のコントロールは歩行時の筋活動に多大な影響を与えることが予測される。臨床においては、外側縦アーチおよび内側縦アーチに対してアプローチすることにより、側方動揺が減少し、下肢の内外側筋群に影響を与えることを多く経験する。そこで本研究では、入谷式足底板の外側縦アーチの評価に用いる長パッドを使用して、歩行時大腿部筋活動に及ぼす影響を表面筋電図(以下EMG)で調べるとともに、側方動揺に対する変化を加速度計にて比較検討した。<BR>【方法】<BR>被験者は、入谷式足底板の距骨下関節(以下ST)評価である(1)骨盤回旋テスト(2)関節モビライゼーションを用いた評価(3)膝サポーターを用いた評価(4)テーピングによる評価の全ての項目においてST回内誘導が示唆された健常成人男性14名(平均年齢25.1±3.2歳、平均身長175.7±8.8cm、平均足長26.9±1.4cm)とした。本研究における長パッドはポロンシートソフト2mm(1cm×10cm)を用い、第5中足骨底近位部に足長軸に対して垂直に貼付した。自然歩行と長パッド貼付後の歩行における大腿部筋活動及び側方加速度を測定し、被検筋は中殿筋・大腿筋膜張筋・長内転筋・大腿二頭筋とした。測定側及び長パッド貼付側は歩行と片脚立位において外側方移動が大きい側とし、一側のみ施行した。歩行時の加速度及び大腿部筋活動は多チャンネルテレメータシステムWEB7000(日本光電社製)を用いて測定し、加速度計は仙骨部に貼付し、各被検筋に能動電極を貼付した。サンプリング周波数は1kHzとし、得られた加速度波形ならびに筋電図波形をBIMUTAS-Video for WEB(キッセイコムテック社製)で取り込み、筋電図波形では30~500Hz、加速度波形は0~10Hzの周波成分を抽出した。また、各被検筋に対して最大等尺性随意収縮を行い、安定した2秒間の筋電積分値(以下IEMG)を基準として各筋における歩行中の%IEMGを算出した。なお歩行周期の把握を目的として、足底にFoot switchを貼付しEMGと同期させた。測定に際しては自然歩行と長パッド貼付後の歩行をそれぞれ60m行い、平均に近似した6歩以上を抽出し、立脚期における時間軸の正規化を行った後10%階級に分割した(以下%STP)。EMGならびに加速度計を用いて自然歩行と長パッド貼付後の歩行における加速度変化及び各被検筋の筋活動変化を測定した。なお、統計処理には対応のあるt検定ならびにPEARSONの相関係数を用い、有意確率は5%以下とした。<BR>【説明と同意】<BR>被験者にはヘルシンキ宣言に沿った同意説明文書を用いて本研究の趣旨を十分に説明し、同意を得たうえで実施した。<BR>【結果】<BR>長パッド貼付により、大腿二頭筋では10%STPにて%IEMGに有意な低下がみられ(p<0.05、r=0.987)、長内転筋においては70%STPにて有意な%IEMGの低下がみられた(p<0.05、r=0.999)。中殿筋及び大腿筋膜張筋では有意差がみられなかった。加速度変化に関しては10%STP付近において内側方向への加速度の有意な増加がみられた(p<0.05、r=0.831)。<BR>【考察】<BR>本研究の結果により、長パッド貼付後の歩行では10%STPにて大腿二頭筋の有意な筋活動の低下がみられ、内側方向へ加速度が増加した。これは長パッド貼付により、立脚初期において内側方加速度が増大し、大腿二頭筋の膝関節内反制御作用が減少したことによるものと推察される。また、長パッドは外側縦アーチの保持だけでなく、後足部レベルの内外側縦アーチ間隙部分の保持も行うため、立脚初期において前方への移動性を高めることにより膝関節屈曲を誘導し、大腿二頭筋の筋活動が減少したことも一つの要因であると考えられる。長パッドは立脚初期に作用し、内側方向への加速度を増大させるとともに膝関節を早期に屈曲方向へ誘導することが考えられるため、中殿筋や大腿筋膜張筋では有意な差がみられず、大腿二頭筋にて有意な低下がみられたものと推察される。また、長内転筋では70%STPにて有意な筋活動低下がみられたが、これは長パッド貼付により、後足部を介して前足部の接地が変化し、長内転筋活動が減少したものと考えられる。今回の結果により、入谷式足底板の評価手法の1つである長パッドは大腿二頭筋の立脚初期の活動を減少させるとともに前足部の接地位置を変化させ推進期における長内転筋活動を減少させることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>本研究では入谷式足底足底板の作成過程におけるパッドを用いた評価を検証するとともに、貼付したパッドがどの相に作用し、筋の働きをどのように変化させるのかを明らかにすることで、各種疾患に対する足底板の形状選択や歩行分析を容易にすることを目的としている。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P2051-A4P2051, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205574063104
  • NII論文ID
    130004581861
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p2051.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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